知床の魔物

知床の岩尾別温泉『ホテル地の涯』の奥にある木下小屋の裏手から、羅臼岳への登山道が延びているけど、
途中の極楽平で、いつも羆のホカホカうん子に会えるのは仕様ですかそうですか。
そんな時は、姿は見えませんがかなり強い獣臭がするんですよね。

知床が世界自然遺産になる前、羅臼岳から硫黄山へ縦走したときに、第一火口のテン場で、羆の生態研究者のご夫妻と、地図制作会社就職希望のあんちゃんに会った事があります。
あんちゃんは(道なき道を)ルシャ川河口経由で知床岳から知床岬まで行くとのことで、研究者さんは大変心配していました。
その時に聞いたお話。

威嚇したり突進してくる羆はルール?を知っているので、実はあまり怖くないそうです。
こちらもルール通りに行動すればOK。
危ないのは人に出会っても見向きもしない羆で、そういう個体は、熊鈴なりラジオなりでこちらの存在をいくらアピールしても動かない。
逆に堂々と歩いてきて、何事も無いかのようにすぐ側を通り過ぎていったりするそうな。
人間はその辺の草木や石ころの様な物で、邪魔だったらベアクローで薙ぎ払いですかぇ。
知床はヒグマ密度世界一で、ルシャ川周辺にはそんな個体が沢山いると言っとりました。

で、あるときあんちゃんがハイマツ漕ぎwをしていると、突然前方でドスンドスンと地鳴りのような足音がして、ハイマツやナナカマドの潅木が左右にブンブン揺れるのが見えたそうな。
しまったと思ったが体が動かない。
思わず目を閉じて固まっている側を強烈な獣臭が通り過ぎていった。

しばらくして目を開けると、後ろのほうで腰の高さ位のハイマツがひしゃげて逝くのが見える。
けれども、肝心のヒグマの姿が見えなかったそうだ。
ただ潅木が見えない何かの力で左右に押し広げられ割れてゆくのが見えたとのこと。
研究者さんが敢えてその話を否定も肯定もしなかった事が、また何ともでした。

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