今年の夏、家族で行った旅行先でのこと。
早朝、カタンという音で目が覚めた。何か窓に当たったような気がして、窓を開けてベランダに出ると、フォークがひとつ落ちていた。フォークはパンダの絵が描いてある小さな子供用のもので、柄の部分にひらがなで名前が書いてあり、その上にセロテープが貼ってあった。俺と同じ名前だった。母に見せると、俺が保育園時代にお弁当用に使っていたもので、字は母の字で間違いないという。俺は全く覚えていない。母も、当時から今までこのフォークをどうしたのか全く覚えていないという。なんでこれが家から遠く離れたここにあるのかさっぱり説明がつかない。不思議なことに、十数年前のものにしてはいやに綺麗だった。なんとなく気味が悪いので、スプーンはそのホテルに置いてきた。
帰るとき、フロントでボーイから封筒を手渡された。昨日の深夜にフロントを訪ねてきた男が、俺の名前と部屋番号を告げ、
「これは彼のものなので渡してください」と頼み、すぐに去っていったという。普段着だが小綺麗な印象の初老の男性だったという。聞く前に立ち去ってしまい、男の身元はわからないとのことだった。封筒の中身はスプーンだった。朝のフォークと同じデザインの、対になるようなもの。やはりおれの名前がセロテープの下に記してあった。ゾッとしてそれ以上はなにも聞く気になれず、捨てておいてくれと頼み、フロントに置いてきた。母には伝えなかった。
全く脈絡もなくよくわからない話かもしれないが、本当にあったことなんだ。フォークとスプーンに関しては、一生懸命考えたが思い出せない。ただ、母がひっくり返したアルバムのなかの一枚。保育園時代、遠足の昼食時に撮った一枚に、それらしいフォークをもっている俺の姿が写っていた。
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報告者が子どもの頃に、誰かにあげたのかな
「ぼくのお気に入りだけど、かわいそうだから貸してあげるね」
「この子が無事育ったら、必ずお返しに伺います」
「うんわかった、じゃーねー」