もう20年くらい昔のこと。
俺が小学生だった頃に、田舎の婆ちゃん家に遊びに行った時の話だ。
婆ちゃん家は昔、蚕を飼っていて、古いがとても大きな家だった。
爺ちゃんは俺が生まれる前に亡くなったから、今では俺のお袋の弟さん家族と婆ちゃんが暮らしている。
婆ちゃん家は昔の家具とかがたくさんあって、俺ら孫たちはその大きな家を探検するのがとても好きだった。
近くには流鏑馬?で有名な神社があり、そこは昔から天狗が現れるという伝説があった。
お袋は子供の頃そこで不思議なものを何回も見たらしい。
ちょうどお盆の時期だったと思う。真夏で暑かったのを覚えてる。
いつものように各家族の孫達が揃うと、ドタバタと家中を走り回り探検が始まる。
俺が1番年上で、お袋の妹の子供が1歳下。その次は更にその下の妹の子供達2人で3~4歳下だった。
お昼ごはんを皆で食べた後、2時間くらいドタバタと屋内外で遊んだ。
1番下の孫2人は昼寝を始めたので、俺は1歳下の従兄妹を連れて2階の物置(元・蚕部屋)へ行った。
いつものように梁の上に登ったり、昔の家具の上に登ったりして遊んでた。
窓からは午後の日差しが差し込み、ぼんやりと2階の中を照らしていた。
子供だった俺は、家具の上から大きなダンボール箱が2個積んである上に飛び降りてみようと思い、
思い切ってジャンプした。
ドスンと箱の上に着地したが、すごい埃でゲホゲホ言いながら箱から降りた。
飛び降りた勢いで2個の箱は崩れ、中身が見えていた。
何だろう?と思い中を見ると、天狗のお面や団扇、お祭りの衣装?のようなものが入っていた。
そういえば、神社のお祭りの時に叔父さんがよくこの衣装を着て舞台の上で踊っていたことを思い出した。
箱の中には他にも色々と昔のものが入っていて興味津々だった。
と、その時、従兄妹が何か言った。
「おにぃちゃん、ここに戸があるよ?」
え?戸?おかしいな。婆ちゃん家は何度も探検してたがこんな所に扉なんてあったっけ・・・
確認したが確かにあった。恐らく飛び降りた拍子にダンボール箱がズレて、隠れていた戸に気づいたんだな。
好奇心の塊だった俺は邪魔な箱をどかし、その戸を恐る恐る開けてみた。
そこは天井裏のような空間だった。何もなかった。いや、よく見ると1番奥の壁に何か貼ってある。
何だろう?貼ってあるものが何なのかすごく気になった俺は、とりあえず中に入って見てこようと思った。
従兄妹もついてきた。
しかし床がおかしい。他の部屋のように頑丈な感じではなく、薄い板のような感じだった。
仕方ないので縦横に何本も張り巡らされた梁の上を進んでいった。
その空間は高さもあまりなく、小学生の俺でさえ立って歩くのが困難なくらい天井が低かった。
壁には窓はなかったが、外からの光が透けて入ってきており明るさは問題なかった。
ようやく1番奥へ辿り着き、貼ってあるものを確認した。
それは1枚の御札だった。但し、なぜか上下逆さまに貼ってあった。
そして更に不思議なことに、貼ってあったのではなく、串で刺して固定してあった。
今思えば何であんなことをしてしまったんだろうと後悔してる。
まだ子供だったんで何も考えてなかったんだろうな。
俺はその串を抜いて御札を手に取り、色々と観察してみた。
かなり年季の入った物であることがわかった。
漢字で何か書いてあるが読めない。
そして串は、よく見ると弓矢の矢のようだった。
と、その時だった。
ドスン!・・・ドス、ドス、ドス・・・
何かの大きな音が聞こえてビックリした。従兄妹も驚いたようだ。
その音は大人が歩いているような音だった。
誰か2階に上がってきたのかな?そう思ったが何かがおかしい。
よく聞くとその音は、俺らが乗っている床?の上を歩いている感じだった。
床の下の部屋から何かで突っついているのかとも思ったが、そんなものじゃなかった。
明らかに歩いている音だった。天井を逆さまで・・・
天井を歩くって・・・なんだそりゃ???
マンガやアニメではそういうシーンは見たことある。
でも聞こえてくる音はそんな現実逃避を100%吹き飛ばすリアルなものだった。
従兄妹は怖くて泣いている。
とりあえず逃げないとヤバイことだけは理解出来た気がした。
俺は剥がしてしまった御札と矢をポケットにしまい、従兄妹の手を引いて梁づたいに入口まで戻り始めた。
出来るだけ音を立てずに進んだ。
例の足音はどうやら床をあちこちを歩き周っているようだ。まるで何かを探しているような感じで。
と、その時、ポケットの中から矢が床に落ちてしまった。
カタン・・・
しまった!と思うのとほぼ同時にドス ドスドス!と足音が近づいてきた。
確実に俺らの真下にいる・・・
ハァーッハァーッという息遣いや爪?のようなもので床を引っ掻く音まで聞こえてきた。
恐怖の限界だった。従兄妹は怖さのあまり目を見開いて硬直している。
と、その時、床のある1点に何かが見えた。
穴だ・・・それは床に開いた直径3cm程度の穴だった。
どうやら真下にいるやつは、そこから必死に覗こうとしているらしい。
入口まではあと10m程もある。このままでは逃げ切れないかも知れない・・・
そう思った俺は、床に落ちた矢を拾うとゆっくりとその穴に近づいた。
今にも心臓が破裂しそうだった。
そして恐る恐るその穴を覗いてみた。
目が合った。
恐怖で声にならない声を上げ、気がつくと俺はその穴に矢を刺していた。
ドスン!
ギィャァァァァァァァァ!ドタバタドタバタ!
真下にいた何かが本当の床に落ちた音がした。
今しかない!俺は従兄妹の手を引き入口まで一目散に突っ走った。
そして外に出るとすぐに戸を閉め、ダンボール箱で戸を隠した。
怖さで二人ともしばらく無言で固まっていた。
窓から差し込む光は夕暮れ色になっていた。
ほどなくして親から夕飯だから降りてこいとの声が聞こえて我に返った。
階段を下りながらポケットに手をやると、おかしなことに御札がなくなっていた。
泣いてる従兄妹を見てお袋が「また泣かしたの?仲良く遊びなさいよ」と言った。
みんなで食べた夕飯の味もよくわからなかった。
一体アレは何だったんだろう・・・
あれだけドタバタ音がしてたのに誰も気づかなかったのかな?
従兄妹の家は夕飯後に帰った。うちは遠いので何泊かしてゆく予定だった。
俺はその晩は怖くて眠れなかった。
翌朝、婆ちゃんに聞いてみた。
すると婆ちゃんは、そんな部屋は知らないと言う。叔父さんも知らないと。
そんな馬鹿なと、例の2階のダンボール箱の所へ連れて行った。
しかし箱をどけても戸はなかった。
俺は頭が???な状態でしばらく昨日のことを力説したが、やがて無駄なことだと理解してあきらめた。
ただ、婆ちゃんがこんなことを言った。
「この辺は昔は、天狗様に連れ去られる人がおったったで。特に子供がな。
んだで、神社でお祭りするようになったじゃのう。おまえもお参りしてくるといいで」
俺はお袋と神社へ行ってお参りした。
お袋は俺の言ったことを信じたようで、「御札はありがたいものだから無闇にいじってはいけない」と教えてくれた。
お袋も小さい頃天狗に遭遇したが、なぜか連れ去られなかったと教えてくれた。
時が経ち、その従兄妹とは数年前に他の従兄弟の結婚式で会ったが、
あの出来事についてはすっかり忘れていたようだった。
今でもあの空間や床下にいたのは一体何だったのか・・・よくわからない。
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UzOTQ4NDY
[…] 確かに、もし工事であの辻が破壊されてたら、この高速の建設計画もどうなっていたか・・・考えると恐ろしくなる。 ちなみに、この事件の1年ほど後、前回の天狗の事件に遭遇した。 […]