友人Tの話。彼はとにかく不思議なヤツだった。まず、身体が異常に柔らかい。酢を毎日飲んでいた。そして奇妙な拳法をやっていた。後にそれがジークンドーって、ブルースリーの開祖の拳法だと分かるのだが。弓矢を作ってハトを仕留めたり、おじいちゃんは犬を軍用犬の用に訓練したり。ある日遊びに行ったら、弟はトンファーを持ち、Tはヌンチャクで戦っていた。まあ練習なんだろうけど、なじみの無い俺からすると変な光景でした。ここまでは良くある普通の変なヤツだと思うが。
Tは陰が薄いヤツだった。といっても、目立たないとか暗いとかじゃなくて、気配が完全に無くなる事が良くあった。拳法の成果なのかどうかは謎だが。たとえば、よくある友達と一緒に歩いていて、今まで右にいた友達に話しかけるといなくなってて、左にきていたって事、誰でもあると思うのだけど、Tの場合は、これが一日一緒にいると十数回ある。これはTの友人なら誰でも知ってる事であって、たまに話題にも上がる。ヤツは気配を完全に消せると。
そして、T自身が言う調子が良いとき、彼はテレポートするのだ。本人は意識してかしてないかはっきりしないが、俺が見た例は3つ。一緒に道を歩いていた。右にいたと思ったTが、柵の向こうの学校に戻っていくのが見えた。Tは校舎に入っていった。唖然として、そのまま下校したら、Tは家にいた。途中で抜かされてもいない。
自転車で坂道を下っていて、Tが先に角を右に曲がった20Mほど先だろうか、曲がって見えなくなった瞬間、後ろにシャーーーって自転車の音が。まさかと思って振り返ると、そこに自転車にのったTがいた。
そして一番びっくりしたのは、修学旅行の時。寝ていたTが、急にドサッっと空中から落ちたのだ。上手く表現出来ないが、寝ている場所から1M上にサッっとそのままの体勢で移動して、そのまま落ちる。落ちた後は、気づく様子も無く寝ている。結構痛そうなんだけど。んで、これらの事を本人に問いただしても「うん、そうなんだよ。右に今曲がったよなあ。俺、おかしいなあ。なんでここいるんだろ。 でも良くあるんだよこれ」と言っていた。
Tと数年来の友人なら、誰でも一度は見たことがあり、Tはテレポートするんだってのが、その友人関係の間では当たり前の認識になっていた。奇妙な話なんだけど、中学生だしそんなもんだと思ってた。Tの弟と話す機会があったときに話してみると、買い物とか家族で行ったときに、電車の外にドアしまってから移動しちゃって大変だったそうだ。家族も今では、いなくなってもほっとくらしい。あーどうせまた移動しちゃったんだろって。
そして、数年間連絡を取っていなかったTに電話したときのこと。こっちも大人になってるので、どうしても気になったので、テレポートの事を聞いてみた。そしたら、最近はめっきり少なくなったんだけど彼女と同棲してるときにやっちまって、彼女が気持ち悪がって別れたそうだ。困ってるんだよなーと言っていたが、どうしようも無い。とにかく奇妙だなって思うのは、友人も家族も俺も含めて、Tのテレポートが当たり前の認識になってるってことだ。
ここのスレ読んでて、テレポートしちゃった人の話とか聞いて、あーTみたいなやつって結構いるんだと思ってしまった。