忌み名の風習がある家系

ぜんぜん怖くないけど、我が家にもちょっと奇妙な風習があったのを思い出した。父方の祖母の家系は東北の郷士の出だったらしく、祖母とその姉(どちらも故人)、祖母姉の子供たち(存命)は、全員『二つ名』を持っている。戸籍上の名前とは別の通り名みたいなもので、正式な公文書以外にはそちらの名前を使う。うちの祖母は、年金通帳から銀行や郵便局の通帳まで通り名で作っていたが、昔は今みたいに本人確認がうるさくなかったので、大丈夫だったらしい。父の従兄弟たちも、普段はこの二つ名で通していたので、子供の頃は、そちらの親戚から来た年賀状に書かれた名前が違うのが、不思議でたまらなかった。

一方、我が家では二つ名を持っているのは祖母だけで、うちの父親も、祖母が前の婚家で産んだ子供たち(伯父伯母)も戸籍上の名前だけ。孫である私と姉も二つ名は持っていない。この二つ名にどんな意味があるのかと祖母に訊いたことがあるが、「悪いものを寄せ付けないためだ」としか教えてくれなかった。

うちの一族は死別・離婚・再婚がやたらと多くて、晩婚や生涯独身も珍しくない家系。祖母自身も、海軍士官だった婚約者が戦死したため農家に嫁がされ、子供二人をもうけたところで旦那が病死。そのまま旦那の弟の嫁にされそうになったので婚家を逃げ出し、鳶の頭をやっていたうちの祖父と駆け落ちした経歴の持ち主。どうやら農家に嫁いだ時点で、子供に二つ名をつけるのをやめてしまったらしいのだが、祖母の子供たちは全員貧乏で、離婚→再婚している人ばかり。うちの父親も二度結婚したが、二回とも嫁に逃げられ、アル中で入退院を繰り返した挙句に頓死。その娘である腹違いの姉は、21で最初の結婚をしたが、子なしのまま離婚→元旦那の弟と再婚。妹の私は、父親の面倒を見ているうちに婚期を逃し、独身のままアラフォー突入。

一方、商家に嫁いだ祖母の姉一族は、全員が家庭にも経済的にも恵まれている。祖母がじぶんの家系にも二つ名をつけていてくれたら、と思わないでもないが、時代が変わったのだから仕方がないのかもしれない。

メールアドレスが公開されることはありません。