叔父の話を一つ語らせてもらいます。
幼少の頃の叔父は、手のつけられない程の悪餓鬼だったそうで、疎開先の田舎でも、畑の作物は盗み食いする、馬に乗ろうとして逃がす等、子供達のガキ大将を自負するようなDQNでした。
さて、その疎開先には、地方にしては大きな神社がありました。「今となっては何を祀っていたのかもわからん」だそうですが、桜の木が何本も植えられていて、春ともなれば正しく満開の桜が見物できたのでしょう。また、聖域とでも言うのでしょうか。「子供達がむやみに近づいてはならない」という、暗黙の了解があったようです。
しかし、そこはDQNな叔父のこと。「やってはいけない」と言われれば、反発心が刺激されます。ただでさえ娯楽の無い疎開先。いずれは出ていくという気持ちもあったのでしょう。一つのイタズラを実行に移す事にしました。神社には、神様を乗せる(?)馬が飼われています。これに乗って、神社の石段を駆け下りようというのです。勿論、昼は大人達の目がありますから、夜のうちから神社に忍びこみ、朝のお勤めの時に馬で駆け出す…みんなびっくり。俺様の株、急上昇という作戦でした。
予定どうりに深夜部屋を抜け出して、神社へと向かう叔父…。満開の夜桜が近づくにつれ、叔父の耳に場違いな音が聞こえてきました。
ぽんぽん…ぽぽん…それはツツミの音だったそうです。最初は大人達が酒盛りでもしているのかと警戒した叔父ですが、こんな深夜の、この戦時中に、ありえない事くらい子供にもわかることでした。神社に近付けば近付くほど、ぽん…ぽぽん…という音がハッキリ聞こえます。鳥居の影に隠れ、中を覗く叔父。
そこには、ひどく幻想的な光景がありました。風に散る夜桜の花びら、ツツミをうつおかっぱの子供。くるくる…くるくると舞う1人の女性。
叔父は時間を忘れ、その光景に見入ったそうです。この世の物とは思えない美しさでしたが、どこかおかしな非常識さが叔父を正気に戻らせ、家へと逃げかえりました。
翌朝、昨夜の出来事を誰かに話したかった叔父は、思いきって、神社の神主さんに全てをうちあけました。話を全て聞き終わった神主さんは、「声をかけたか?」「見つかったか?」など、いくつか質問をした後で、叔父にニンマリ笑いかけたそうです。
「よかったなぁ…見つからんで、ほんによかったなぁ」
「ありゃ、この世の者でない…鬼じゃ」
今でも叔父は、酒が入るとこの話をします。
「S(俺)君、鬼はいるんだよ…」
まぁ、正直俺も信じてないし、オカルトとも微妙に違う気がするけれど、アホくさと思いながらも書いてみました。