山菜のお礼に

山菜目当てに山をうろついていると、いかにも地元の村からやってきたという風情の老婆から声をかけられた。
峠の土産物屋を家族で経営しているとかで、まあ、店の宣伝も兼ねて声をかけてきたらしい。
話をしていると、地元では有名なゼンマイやワラビの群生地へ案内しよう、と言ってくれた。
もしかしたら、観光客向けに山菜を栽培している場所が山の中にいくつかあり、
採取した山菜を自分の店で新鮮なうちに調理し、手間賃を徴収する商売なのかもしれないと思ったが、
まあ、それならそれで良いと思った。

山に慣れた老婆の足は速く、ついていくのが精一杯だったが、やがて老婆が立ち止まり、
「こっちにゼンマイ」「ほれ、あっちがワラビ」
礼を言いながら老婆に追いつくと、確かに一面、特徴ある形のそれら山菜で溢れかえらんばかりだ。
「こっちの隅から取れ」
言われるままに老婆の指し示す場所に屈み込み、ゼンマイを摘み始めた。

「じゃ、頼んだよ」
ん?頼んだって?
顔を上げようとして、目が合った。
老婆とではない。
頭蓋骨。
その眼窩が、まるで俺をじっと見上げているようだ。
眼窩から一本伸びたゼンマイ。
無論、老婆の姿はすでに無い。

『山菜のお礼に』へのコメント

  1. 名前:匿名 : 投稿日:2015/12/18(金) 02:22:11 ID:
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    で、「地元では有名」なゼンマイやワラビの群生地だったのか?
    そんなところになぜどくろが?

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