廃屋であったことについて、俺が覚えているのはここまでです。あとは、家に帰るのが遅くなって、親にひどく叱られたことぐらい。 多少の脚色はありますが(セリフとか言い回しとかね)、95%くらいは本当にあった出来事です。こうやって整理してみると、改めて気付いた事があります。 それは、記憶がかなりいい加減だなってことです。何というか、アンバランスで『いびつ』なんですよね。
カギの掛かったドアや、女の子に見せてもらった数枚の写真。そういうディテールは、細かいところまではっきり覚えているんですけど、家の中の様子なんかは曖昧な記憶しかない。ただ、感触っていうか感情っていうか、怖いとか、気持ち悪いとか、そういう記憶が残っているだけなんです。廊下の突き当たりの部屋に関しても、黒い部屋だっていう印象ばかりが強くて、中がどうなっていたのかは、殆ど覚えていない。部屋に写真があったのは見てるけど、どんな写真なのかはわからないんです。ドアを開ける前のイヤな予感だったり、足を掴まれた時の感触だったり、そういう自分の感じた事は、昨日の事のように蘇るんですけどね。
例外は、押入の中の光景と、耳元の低い声、振り向いた時の友達の表情。特に友達の顔は、目に焼き付いて離れない位ハッキリと覚えていたんです。ところが、あのあと友達がどうなったのかは覚えていない。だから、気になって調べようと思ったんですよ。それが3日前の話です。
名前もわからないんで、卒業アルバムで顔を探そうってパラパラめくりました。そしたら居ないんです、記憶の中の顔と一致する奴が。そんなはずはない。あの時、学校で待ち合わせして一緒に行ったんだから。絶対同じ学校に居るはずだって、何回も見直したんだけど、居ない。 そこで、改めてその友達の顔を思い出そうとしたんですが、黒い部屋の前で振り向いた時に見た顔以外、全然思い出せない。虚ろなあの表情が、俺の中に残された記憶の全てでした。
それだけじゃないんです。ずっと仲の良い友達だったと思ってたのに、そいつと一緒に遊んだ思い出が、その廃屋へ行った時のものだけだって事に、その時初めて気付いたんです。
「そんなアホな・・・」
そう思って、もう一度アルバムを繰るうちに、あるページのところで手が止まりました。そこには、あの廃屋にいた女の子の顔写真が載っていたんです。慌てて他のページも確認しました。その顔は、卒業アルバムのいたるところに載っていました。名簿には、ちゃんと名前も住所も書いてあります。正体不明だと思っていた女の子の存在を確認した事で、俺の記憶は、いよいよアヤフヤなものに成り下がりました。
少し迷ってから、俺はその女の子(仮にAとします)に連絡を取る事にしました。幸い母親がAの携帯番号を教えてくれたので、早速電話してみました。最初は怪訝な口調だったAも、事情を話すと、「ああ、あの時の・・・」と、思い出したようでした。 てゆーか聞いてみると、Aはあの時のことを克明に覚えていました。
Aはあの日、あの廃屋の近所に引っ越してきました。で、あたりをブラブラするうちに廃屋を見つけたAは、塀の隙間から中に入り、すでに開いていた玄関から上がり込んで、探検を始めました。やがて書斎みたいな部屋で、数枚の写真を見つけました。それを見ているうちに、持ってきた懐中電灯の明かりが消えてしまった。それで少し怖くなり、探検を続けるか迷っているところで、誰かが玄関のドアを開ける音が聞こえてきました。てっきり「大人が入ってきて怒られる」と思って、身を固くしていたところ、現れたのが自分と同じくらいの年頃の子供だったので、ホッとしたそうです。安堵感でちょっとハイになったAは、探検を続けるように持ちかけました。(あの時のちょっと芝居がかった仕草は、多少の演技を交えて好奇心を刺激する、Aの作戦だったわけです)その甲斐あって、現れた子供とAは一緒に家の中を探検し始めました。
「そこで二人になったから、探検続けてしもたんよ。あそこで止めてたら・・・」
「え??ちょっと待って」
俺はあわてて聞き直しました。
「二人って・・・」
「だから、私と**君(俺の名前)の二人やんか。他に誰が居るっていうの?」
一緒に廃屋を彷徨ううちに、Aは俺の行動がおかしいことに気が付きました。誰も居ない方向に向かって話しかけたり、誰かの後を追うように歩いたり。そういうのが気持ち悪くて、Aは少し離れて俺の後ろを付いて回りました。やがて、あの渡り廊下にさしかかったあたりで、喋り声が聞こえてきました。Aはてっきり、俺が独り言をつぶやいているんだと思ったそうです。
Aの恐怖心は、一気にふくれあがりました。そして、俺が黒い部屋のドアを開いた時、Aはものすごい悪臭を嗅いだのです。思わず口を押さえ、後ろを向こうとした時、低い男の声で「・・死んでまうのに」と言うのが聞こえました。 見ると、俺が虚ろな目をしてこっちを向いている。真っ黒な部屋を背にした俺は、背景を黒く塗りつぶされているように見えました。 まるで、あの写真のように。それで、Aは振り向いて逃げ出したのです。俺と同じく、夢中で逃げるうちに、いつしか自分の家の前まで来ていたそうです。 Aはそれからしばらく、悪夢に悩まされました。 その後、学校で俺を見かけることはあっても、あの時のことを思うと、声を掛ける気にはならなかった。だから今日までの俺は、Aの事を覚えてなかったんです。
後にAがこんな事を言いました。
「でもね、こういうこと言ったら何やけど、**君のいう友達っていうの、今も居るんだよきっと」
「え?」
「ホラ、さっき『二人?』って聞き直した時あったでしょ? あの時、**君の声にかぶってたよ。『マジで・・』って。低い男の声」
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なんで母ちゃんはAの携帯電話の番号なんか知ってたん?
引っ越してきた当日に片付けもせんとよその家に忍び込む小学生女子w
新しいのに原因不明の近所の廃屋、親に聞かないの?
あと、アレとかコレとか
突っ込んだら負けな話なのかなw、負けました