2chのオカルト板で紹介されていた、『猿夢』と言う話をご存知だろうか?とある電車に乗り合わせた人が、独特の方法で順番に殺されていくというものだ。知らない人は『死ぬ程洒落にならない話を集めてみない?』の『投票所』で探してみて欲しい。上位にランクインしているので、すぐ分かるはずだ。
さて、この『猿夢』だが、このテの話に多い『読んだ人にも災難が降り掛かります』的なコメントもなく始められていて、文章も読み易く、僕はページを開くなりサクサク読み進めていった。しかし、それが間違いだったのかも知れない。この話を読んでから4日目の晩、僕は『続き』とも言える恐ろしい夢を見たのである。二番煎じは一番を超える事は出来ない。それは重々承知だが、僕の見た夢をここに書き留めておきたい。
夢の中で、僕は名古屋市内のとある遊園地のスロー・コースターに乗っていた。今はもうなくなっているだろうか?それは子供向けのアトラクションで、園内の一部をゆっくりと回って来る。頃の事なので細かい事は良く覚えていないが、大体3~5分の内容ではなかっただろうか。降り場の手前に小さなトンネルがあって、そこを抜けるとビデオカメラを構えた父。隣には、僕らの名前を呼びながら手を振る母の笑顔があった。これは父からの虐待が始まる前の、最も幸せだった頃の大切な思い出だ。
夢の中で僕は2人掛けの一番前の席に座っていた。隣には幼かった頃の姉がいる。あの頃僕は姉を見上げてはしゃいでいたのに、この夢の中では僕だけ20歳。この年齢差では、年の離れた兄妹どころか、下手をすると親子のようだ。しかし、僕は懐かしいあの頃の夢を楽しむ事にした。
僕らの乗ったコースターはゆっくりとコースを回り、やがてトンネルに差し掛かった。このトンネルを抜ければ、優しかった父にもう1度会える。僕はそう思った。しかしトンネルを抜けると、そこはあの遊園地ではなかった。今まで僕が乗っていたコースターは電車に変わり、僕は『5号車の自由席』に乗っていた。隣にいたはずの幼い姉はもういない。席は前の方で、喫煙車両である4号車とを繋ぐデッキのドアが開くと、煙草の匂いがした。僕は新幹線で移動する事が良くあるので、夢がそこに繋がってしまったのだろう。全く、夢はいつも『いいトコ』を見せてくれない。僕は舌打ちした。
窓の外を見慣れた景色が過ぎていくただ現実と違うのは、車内があまりにも静か過ぎる事。そして2人掛けと3人掛け、左右どちらのシートを見ても、どの列にも窓際に1人ずつしか掛けていない。そして皆異様に顔色が悪かった無気味だなと思いつつ、僕はいつの間にか抱えていた鞄からMDプレーヤーを取り出し、お気に入りの曲を聴いた。
新幹線が減速し始める。おかしいな?京都に着くにはまだ早過ぎる。もしかして岐阜羽島にも停まるのか?僕は駅名を確認しようとヘッドフォンを外したが間に合わず、聴き取る事が出来なかった見知らぬ駅で停まる新幹線、突然車内に響く叫び声。どうやら後ろの方の席で何かあったようだった。しかし物凄い声だったにもかかわらず、誰1人反応しない。何があったのか?しかし僕の視力では後ろまで見えない。乗り降りする人は誰1人なく、新幹線はまたゆっくりと走り始めた。 5分と経たないうちにまた減速。次の駅名は聴き取る事が出来た。
『吊るし上げ』
新幹線はまた知らない駅で停まる。そしてまた、叫び声。慌てて後ろを振り返ると、初老の女性が吊るし上げられていた。相変わらず良く見えないが、首に紐が掛けられているのだろう。首の辺りに手をやってもがいていた。手足がシートや壁に当たる音がバタンバタンと聞こえる。僕はやっとこの夢が何であるか分かった。恐らくこれは『猿夢』だ。一刻も早く目を覚まさなくてはならない。しかし僕は、自由に目を覚ます事が出来ない人間であるため、しばらくその夢を見る事になってしまった。
とりあえず今何人が殺されているのか、僕は何番目なのかを知っておきたかった。僕の乗る5号車の、後ろ4分の1程は空席のようだ。しかし実は既に殺されていて、そこには『猿夢』のように、『活け造り』や『抉り出し』された人が座って(?)いたのかも知れない。僕が座っているのは前から6番目。まだまだ順番が来るには早いが、さっさと目覚めなくてはならない。しかし、なかなか目覚める事が出来ない。その間に、何度も聞こえる叫び声。と、いつもドリンクやサンドイッチを売り来る車内販売の女性が、ニコニコしながらカートに内臓を乗せて押していくのが見えた。もう駄目だ。早く目覚めろ、目覚めろ、目覚めろ。
順番を確認するのに、僕はまた後ろを振り返った。すると、後ろに座っていた何人かがスッと消え、同じように席もなくなった。前から6番目にあったはずの僕の席は、真中あたりに来ていた。慌てる僕に、すぐ後ろに座っていたリーマン風の男が言った。
「目覚めたから席が消えたんだよ。アンタも早く目覚めないと、すぐに順番が来る」
僕の8つ後ろの席から、血が流れているのが見えた。大丈夫、まだ7人余裕がある。早く目覚めて、もう2度とこの夢を見なければいい。
次の駅が来た。
『串刺し』
と、大変な事になった。自分の番が来るまで後7人あると思っていたのに、その駅で一気に5人串刺しになって殺されてしまったのだ。次は僕の後ろのリーマンの番だ。しかし彼は、シート越しに穏やかな口調で話し始めた。
「オレはもう目覚めなくていいんだ。会社はリストラされたし、妻は・・・」
ガクガク震えながら彼の身の上話を聞いているうちに目が覚めた。
目覚めた時は冷や汗をいっぱいかいていた。あんなに長い夢だったのに、時計を見るとほんの20分程しか経っていない様だった。夢』・・・あまりにインパクトが強過ぎたために、こんな夢を見たのだろう。話自体が、この電車への切符なのかも知れない。もう2度とあの夢を見ないようにしなくては・・・恐怖のあまり心臓発作で死んでしまうかも知れない。