【閲覧注意】身代わり人形って、知ってる?

ここは県立S学園。伝統ある、といえば聞こえがいいが、実質ただのオンボロ校である。近くに新しい私立高校ができたこともあり、来月廃校が決定した。そんななか、校内では異様なほどにオカルティックな話が流行っていた。その奥底には、何か起これば廃校は取りやめになるかもしれない、といった子供達の無邪気な思いがあったのかもしれない。だが、彼らはその火遊びの危なさに気付いてはいなかった。科学という明かりを手に入れ、調子に乗って暗がりに光を当てていると、いつか光の届かない、本当の闇に呑まれてしまうかもしれないことを…。

「ねぇ、聞いた?天野くんたちがやるっていってたこっくりさん、みんな途中で気絶したんだって!!」
「夜中の3時に踊り場の階段で三回回るとね…」
「おい越川!魔法陣作るんだろ、急げよ!」
日常的に交わされる、そんな会話。だが、祐子の耳に入ってくるのは、全て聞いた覚えのあるものだった。

その時、ふと違和感を感じて教室の隅を見た。そこでは、数人の女子がこそこそとなにかを話していた。祐子は数秒考え、違和感の原因に思い当たる。だれもが平気でオカルト話をしているなか、ひそひそ話すような人は他にいなかったのだ。それが気になって、祐子は聞き耳をたてていた。
そして…
「身代わり人形って知ってる?」

結局、その言葉が気になった祐子は話の発信者らしき三人を捕まえて、話を聞いたのだった。
まとめると、
•三人のうちのだれか(誰だったか覚えてないらしい)がその情報を仕入れてきた
•それは身代わり人形というもので、それをすると、一度だけ自分に降り懸かる災厄を防いでくれるとか
•やり方は、おおざっぱに書くと、自分の持ち物で人形を作り、それに自分の血をつけ、池(水は異界に繋がるらしい)に流す(真似しないように!)
•やろうとしたら、霊感の強い(自称だが)一人が「絶対ダメ!!」といったためやらなかったらしい
三人(特に自称霊感)はやらないほうがいい、といったが、祐子はもうそんなことは聞いちゃいなかった。

人形には消しゴムを使い、学校の裏の池に流した。(流しちゃったのに、どうやって身代わりになるのかしら?)
り道に思いついたこの問いは、すぐに答えをだしてくれた。寮に着いて(S学園は全寮制である)自分の部屋へ戻ると…
「ひぃっ!!」
そこにはたしかに、先程流したはずの人形があった。人形は池に流したはずなのに、まだ血がついていた。むしろ、その赤を吸収したかのようだった。言い知れぬ恐怖を感じた祐子は、それを押し入れにほうり込んだ。手には血がついていた。悪夢の始まりはそれからだった。

毎晩夜中になると、『何か』が押し入れをス―ッと開け、ピタッ・・ピタッ・・と濡れたような音をして歩き回るのだ。そして、最後は必ず祐子のベッドの横で止まるのだった。祐子はひたすら目を固くつぶって耐えた。朝になるとベッドの横に、あの消しゴム人形がいた。そんな風にして眠れない日々が続くと実生活にも影響がでる。最初に「大丈夫?」と声をかけたのは、友人の一人、夏子だった。

わけを話すと、夏子は明らかに信じなかったが、祐子の目の隈を見て「家、来る?」と言った。祐子には天の助けに思えた。夏子の家は、両親が事故で死に、家に夏子一人しかいないため、特例的に自宅通学を認められていた。結局祐子は二日間寮に戻らず、夏子の家で過ごした。むろん、何も起こらなかった。

三日目の朝、さすがにバレる可能性があったので、仕方なく寮に帰った。祐子は気が重かったが、それは自分の部屋の前で最高頂に達した。だが、突っ立っていてもしょうがないので、ドアノブにカギを挿し、回す。意を決してドアを引いたその時「♪~♭♪¶♪☆~」ケータイが鳴りだし、電話がかかってきたことを知らせた。夏子だった。

「もしもし」
『あっ、祐子ぉ~。さっきさぁ、あんた家に教科書忘れてったんだけど…』
何となくホッとし、返事をする。だが、ふとドアを見て、顔色が変わった。わずかに開いたドアのすき間から、 血まみれの手がにゅーっ、と伸びて・・
「きゃあっっ!!」
祐子はケータイを放ると、すぐさまドアを閉めた。息が荒かった。

『ちょ…もしもし!?祐子!?』
異変を察した夏子はすぐにやってきた。ドアの前で呆としていた祐子はいっしょに入ってくれ、と頼んだ。恐る恐るドアを開けるがなにもない。リビングのドアを開けると、何故かカーテンが閉まっていて、暗かった。カーテンを開けようとして近付くと・・

ヌルッ
足が滑った。床が濡れているようだった。だが、よく見てみると…床は、まるで血まみれの『何か』が歩き回ったように、真っ赤な足跡で埋まっていた。それでも一瞬の後、光を取り入れようと、カーテンまで走り、思いっきり開けると…窓は、赤い顔形と手形でいっぱいだった。

部屋から出られない『何か』が、窓に顔と手をひっつけて主を待っていたかのようだった。その時、バタンと音がして、リビングのドアが閉められた。祐子はハッとして駆け寄る。しかし、磨りガラスの向こうの人影は、ドアノブを回すことを許さなかった。
「夏子!お願い!!開けて!!!」
「祐子…ごめん…でも……さっきから…祐子の…に…血……の…」

その瞬間、世界から音が消えた。祐子の耳に聞こえたのは、ス―ッという、あの音だけだった。
ピタッ・・ピタッ・・
『何か』が近づいてくる。
そして
「ミーツケタ」
ズルッ・・ズルッ・・・
何かを引きずるような音がしばらく続き、またス―ッ、トンと音がして、闇への扉は閉ざされた。

我に帰った夏子が再びリビングのドアを開けたとき、そこにはもう、何もなかった。誰かが住んでいた、形跡すらも―自らが裏切った友の名を叫ぶ声が、がらんどうの部屋に響いた。一瞬、小さく、だがはっきりと、押し入れから返事が聞こえた。
「モウイナイヨ」
さっと押し入れを開けると、そこにはバラバラになった赤い消しゴムがあった・・

異界のモノには気をつけましょうね。なんでもない顔をしながら、その辺の棚の上で、あなたが手に取るのを待っているかもしれませんよ。

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