夏の夕暮れに会った黒ずくめのおっさん

インディ・ジョーンズ失われたアークっていう映画に登場する、黒い服を着て、黒い帽子を被った不細工なオッサン知ってますか?僕は中学生の時に、あれにソックリな幽霊(だと思われる)を見ました。

僕んちは大田区内にある二階建ての一軒家で、その日は夏休みを返上して翌年に控える受験勉強をしていました。親父は仕事、母は小学生の妹を連れて朝から外出してました。僕は二階にある自分の部屋で1人参考書と闘ってました。既に夕方6時は過ぎてたと思います。

夏の夕暮れ時って感じで、部屋の窓から見下ろす路地も薄暗くなってました。暫くボーっとしながら路地見ていたら、右隣2軒目の家の正面にある電信柱の後ろから、誰かが顔を出しているのが見えました。『あんなとこで何やってんだ~?』と、よく見てみると、電信柱の陰から黒い帽子を被ったオッサンがこちらの方を見ていました。

家に1人だった僕は薄気味悪くなり、目を逸らして机に向かいました。1分もたたずにもう一度チラッと先程の路地に目をやると、その道のド真ん中に黒いスーツを着て、黒い帽子を被ったオッサンが突っ立ってこっちを見上げていました。夕暮れ時とはいえ真夏なのになんであんな暑苦しい格好してるんだ?と怖くなり、慌てて目をそらしましたが、またまたチラッと目をやると、なんと僕んちに近づいて来るではありませんか!

家の門(といっても小さな門ですが)の前辺りまで近づいた為、1階の屋根に遮られ僕の部屋からは例のオッサンが見えなくなりました。間髪入れずに門が軋みながら開く音が聞こえきました。誰?知り合い?と考えていたら、鍵が締まっていたはずの玄関のドアがパタンと閉まる音が聞こえ、ドスドスと階段を上がってくる足音が近づいてきました。

足音は僕の部屋の前で止まりました。部屋の鍵を締めようにも怖くてドアに近寄れません。静寂のまま1、2分も過ぎたでしょうか、僕は小さな声で『誰?』と聞きました。何の返事も無く、でも怖くてドアから一番離れた窓際に寄りかかったまま、更に数分間経ったように記憶してます。ドアの向こうには誰かがいるはずなのに、何の気配もしません。

部屋の中も段々薄暗くなってきたので、ドアの横にある電気のスイッチを押そうと勇気を振り絞り(というか、このまま暗くなったら益々怖くて動けなくなりそうだったので)、一歩前へ踏み出した瞬間、バーンと部屋のドアが開き、部屋の入り口にはあのオッサンが。丸いレンズのメガネをかけ、深々と黒い帽子を被り、黒いスーツを着たずんぐりした体躯のオッサンがニコニコ笑ってました。

僕が余りの恐怖に全く動けずにいると、そのオッサンは右手をゆっくりと僕に向け差し出しました。その手には子供用バット程の大きな鉛筆が握られてました。次の瞬間、僕に向けた大きな鉛筆をクルクルと回しながら、凄い勢いで首を左右に振り出しました。鉛筆と首をぐるんぐるん振りながら「イィィィィー」と奇声を上げながら僕に向かって突進してきました。

パンっと何かが弾ける音がして、目を開くとオッサンは消えていました。僕は訳が解らず暫く放心状態でした。一番先に帰ってきた親父にその事を話しても、笑って聞き流されてしまいました。幻覚を見たという感覚は全く無く、今でもあのオッサンは幽霊だったと確信しています。

今まで多くの友人知人にこの話をしましたが、話のネタとしては怖くてないし、みんなにくだらないと笑い捨てられました。でも、実際に体験した僕にとっては物凄く恐ろしい事でした。

メールアドレスが公開されることはありません。