「自分」からの着信

去年の夏休み、那須高原でキャンプをする事になった。その春に入社した新入社員同士でめちゃくちゃ仲良くなり、男3人女2人の計5人で一泊旅行する計画だった。うちの会社は、社員が一斉に3日間の休みに入る為、社内で休む日を合わせる必要もなく、計画は順調に進んだ。この仲間の中に、俺が付き合い始めたばかりの彼女もいた。

当日。那須ハイランドパーク、那須サファリパーク、そして花火。みんなでカレーを作って、夜遅くまでトランプをした。遊び疲れて、着替えもせずに雑魚寝。俺も、あっという間に、いつの間にか、眠りに就いていた。

夢を見た。誰かに呼ばれて体を揺すられている夢。腰のあたりを誰かが揺さぶっているような感覚があった。ハッとして目を覚ますと、ズポンのポケットに入れっぱなしだった携帯が震えていた。常にマナーモードにしている為、音を出して周りの人を起こす事はなかったようだ。

ディスプレイを見ると、「自宅」と表示されている。こんな時間に?寝ぼけながらも、家族に何か一大事があったのでは?と焦り、電話に出てみたが、入れ違いで切れてしまった。着信履歴を見ると3度ほど「自宅」からの着信があったようだ。友達や彼女を起こさない様に外に出て、リダイヤルで自宅に電話した。何度鳴らしても誰も出てくれない。今まで電話がかかってきていたのに、父親も母親も妹も、誰も出ない。家族に何があったんだろう?

とりあえず妹の携帯を鳴らそうと思った時、恐ろしい事に気付いた。眠気も覚め、一人焦っていたが、焦りは恐怖に変わっていた。俺は、この春から社会人になり、一人暮らしを始めていたのだ。かつて「自宅」で登録していた住所は「実家」に登録変更し、今ひとりで住んでいる所を「自宅」と登録してあったのだ。

彼女にさえ合鍵を渡していないのに。誰もいないはずの部屋から、俺の携帯に3度の電話…。仲間を叩き起こして、事情を説明。泥棒か何かが不法侵入して電話してきてるのでは?という誰かの発言があり、「次に電話がかかってきたら私が出る」と、彼女が電話に出る事に。しかし、結局その後、電話は鳴らなかった。

旅行後、彼女と大喧嘩になった。彼女は、自分以外に女がいて、しかもその女には合鍵を渡していて、で、嫌がらせの電話があったのだと信じて疑わなかった。もちろんそんな相手がいないのは俺が一番知っている。だけど結局、これが原因で俺達は別れた。彼女は会社に居辛くなったのか、その後すぐに退社した。

あの電話は一体なんだったんだろうか?泥棒や見ず知らずの人の不法侵入?…ありえない。もし侵入されても、俺の携帯番号を知っているはずがない。俺の知っている誰かが合鍵を持っているのか、それとも心霊現象なのか。どっちにしても怖いので考えるのをやめた。

その後、俺は引っ越しをした。最近思い出した事がある。旅行に行く前から彼女とおかしな事で言い争いになる事があったのだ。彼女から電話があり、出ると「何?今、電話くれたでしょう?」と言われる。「してないよ。」と言っても「だって着信あったもん。」と。「してない。」「した。」で揉めて、結局、納得できないままで「覚えていないけど、電話したのかな?」と俺が折れた事があった。

キャンプ地で俺の携帯を鳴らした誰かと、俺がいる部屋から、俺に気付かれずに彼女に電話した誰か。引っ越してからは何もない事を考えると、俺が住む前からあの部屋にいた。人ではない何者かだったんだろうな、と今では思う。

『「自分」からの着信』へのコメント

  1. 名前:匿名 : 投稿日:2016/06/01(水) 12:23:01 ID:kxMTk0NDA

    部屋に住む女の幽霊が横恋慕して彼女に嫌がらせってとこか…

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