くだんの話

知り合いの話。

学生の頃、友人にバーベキューに誘われた。
友人の家は酪農家で、町外れの山で小さな牧場を経営していた。

楽しく飲み食いしていると、敷地の片隅に変わった牛舎があるのに気がついた。
建物自体は普通だったが、入口が牢屋のように格子状になっていた。
「どんな牛をいれるんですか」と尋ねると、友人の親父さんが教えてくれた。
「あれは牛を入れていたんじゃない。『くだん』を入れていたんだ」

『くだん』というのは、人間の顔に牛の身体を持つ化け物で、予知能力を持つという。
先の大戦中に生まれたそうで、当時では色々とまずかったことを予言していたらしい。
親父さんはこの話を、しごく平然と語っていたそうだ。






後輩の話。

女の子二人だけで、ある渓谷の観光に出かけた時のこと。
渓谷近くのバス停で出会った小母さんに注意されたという。
「このあたりの山谷を歩く時は、『くだん』に気をつけるんだよ」
『くだん』とは何かと聞くと、
人間と動物の合いの子みたいな人面獣身の化け物で、山に入った女性に悪さをすると教えられたそうだ。
襲われた女性は、また別のくだんを産むのだという。
「本当なんだよ、私は実際に、猿のくだんと熊のくだんを見たことがあるんだ」
小母さんは真面目な顔で、声を潜めてそう言った。

信じたわけではなかったが、人影のないコース外の道は歩かなかったそうだ。

知り合いの話。

真夜中、テントの中で休んでいた時のことだ。
外の荷物をがさごそする音で目が覚めた。
熊だと誰かがささやき、皆は緊張して息を殺したのだという。
その時、外から男の太い声がした。
「ろくな物がねえなあ」
驚いて入口を開けると、大きな毛だらけの黒いものがいた。
身体は熊だったが、顔部の真中についていたのは白い人間の顔だった。
そいつはニヤリと笑って山の中に消えた。
チョコレートや蜂蜜などの、甘い非常食だけが失くなっていたそうだ。

『くだんの話』へのコメント

  1. 名前:匿名 : 投稿日:2015/12/06(日) 03:54:16 ID:E3NTA0MDM


    >予知能力を持つという。
    >「ろくな物がねえなあ」

    なんという容赦の無さw

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