中学の頃、オヤジが家を新築した。続き間の和室をふすまで仕切った一部屋がおれの部屋で、隣は当時同居することになった叔父の部屋。家を建ててだいぶ経ってから、なぜか本家からオヤジが仏壇を引き取ってきた。古くてでかい仏壇。置き場所がなくて、しかたなく叔父の部屋に置かれることになったのだが、大きな仏壇が部屋の隅にどかんと置かれているさまは異様だった。
それ以来、おれは変なものを見るようになった。
欄間ってわかる?(おれはその呼び名知らなかった)ふすまの上、なげしと天井の間の短い壁面なんだけど、おれんちのそこにはツルだかカメだかが彫られ、真ん中が開いて、ガラス張り(透かし彫りっていうのかな)になった板がはめ込まれていた。ってことで、おれが部屋の明かりを消すと、続き間の隣、叔父の部屋の明かりが、透かし彫りのガラス部分から漏れてくるわけだ。おれは真っ暗にして寝るタチだが、叔父は蛍光灯についてるぽっちり豆電球をつけて寝るひとだった。だからおれの部屋の天井には、隣の部屋から欄間の透かし彫りを通して漏れる、異様な形の黄色い光が天井に映っている、という状態だったわけだ。
ある夜、明かりを消し、布団に入って天井に目をやった。隣の部屋からのいつもの異様な形の光が天井に映っていた。それはゆらゆら揺れていた。大きくなったり小さくなったり・・・。叔父が蛍光灯を消したばかりだったから、揺れているのだろうと思った。(ふすま越しに「おやすみ」とお互い声をかけて同時に寝ていたんだ)
ところが、いつまでたっても揺れがおさまらない。
どうも揺れ方がおかしい。自然な揺れの感じではなくて、誰かが意図的に蛍光灯を動かしているような感じ。ブランコの揺れではなくて、何かの機械が一定間隔で行き来しているみたいな感じなんだ。見ているうちに光の動きはますます変になって行った。大きくなったところでいったん止まったりする。絶対ヘンだ。叔父がいたずらでそんなことをするわけはないし・・・。光が小さくなる。そして動きが止まる。終わったかな・・・?
次の瞬間、光はぐわっと爆発的に広がった。放射状に。まるで威嚇するような動きだった。でっかくて異様な形のそいつは、しばらくそのまま天井にとどまっていたが、おれは何だかよくわからないものとして、そいつを見ていた。
しかし、そいつがやがて小さくしぼみ、ふたたび爆発的にでかくなったとき、鳥肌と寒気が全身を襲った。そこでようやく、何か異常なものにおれは遭遇しているのだと認識できたんだ。そういうことがしょっちゅう起こった。廊下で誰かが歩く足音を聞いたり、便所の小窓の外に白い物が飛んでいたり・・・。金縛りにもしょっちゅうあうようになった。しばらくして叔父の部屋を改修し、仏壇は壁の中に収納された。すると怪現象はおさまった。
だが、おれが高校を卒業して家を出、何年もしないうちに叔父がおかしくなった。夜中急に家から飛び出して、わけのわからないことを叫んだりするようになったんだそうだ。手に負えなくなって病院に連れてったら、そのまま入院となり、叔父はいまだに入院している。(もちろん精神科)
おかしくなった叔父が、夜中に叫んだ言葉ってのがいつも、「そこに隠れてるのはわかってるんだぞ!出て来い!」だったらしい。