子供の頃、家族で父の実家に帰省したときの話。父の実家は、築100年位の古い日本家屋で、地下があった。でも、地下へ続く階段はとても急で「危ないから下りちゃダメだ」と言われてた。
だけどそこは小学生男子2人、弟と二人でこっそり下りる事に。最初は、一段二段と降りて「キシシ」と笑う程度だったが、段々エスカレートしてきてもっと下までおずおずと下りた。下で弟が「ダメだよ、怒られちゃうよ」と言うと、兄としてはびびってると思われたくないと思い、おっかなかったが虚勢を張ってついに地下へ。
ギシギシ鳴る廊下、古く黒化した木の扉、空気も重くて正直怖かったんだが、また虚勢を張って弟に下りてくるように言った。弟がそろそろと下りてきた後、二人でしばらく黙り込んだ。子供ながらに、何か不穏なものを感じたのかもしれない。そっと「ここ開けてみよう」と言って扉に向かったら、弟は「怒られるよ~」と泣き声。さらに兄の威厳を示すべく、扉に手を掛けるも動かない。ちょっとムキになって力いっぱい引いたが、それでも開かない。
ホッとして「鍵かかってるよ」と言うと、弟も近寄ってきて扉に軽く手を掛ける。仙台箪笥のような金具がうってあり、いかにも重そうだったんだが、扉は「カラカラカラ……」と軽やかな音を立てて開き、そしてそのままビビリなはずの弟は、スッと中へと入っていった。
そこから次の記憶は、夕飯を食べている所。その時の気分は「何となく変だと思ってるし、記憶が飛んでるのも分かってて、不思議だなと感じてはいるがあんまり気にしてない」ってとこ。弟も普通にご飯食べてて、何となくボーっとそれを見てたと思う。
その夜、寝ていたら両親と祖父母が何やら騒いでいて目が覚めた。弟が高熱を出した…心配になって起きだし、弟の所へ行くと真っ赤な顔でぐったりしている。祖母が慌てて「こっち来ちゃダメ!」と言い、俺は母に押されて布団へ戻った。次の日になっても弟の熱は下がらず、医者が言うには「疲れてるんだと思う」との事だった。夜に、母が「今時、そんなバカな事!」と言っているのを聞いた。救急車を呼ぶか、今すぐ病院に連れて行くかと口論してるようだった。その次の日の朝、祖父が死んだ。弟の熱は、ウソのように下がった。
父が祖父の遺体に「親父親父…ありがとう…ありがとう…」と言って泣いてた。母は、土下座して泣いてた。病み上がりとは思えない位、元気な弟は「さっき、おじいちゃんと話したばっかりだったのに」と泣いてた。後で思ったが、これも明らかにおかしい。弟の熱が下がったのは、祖父が息を引き取った後だったのだ。その後は、祖母を引き取って、あの家を取り壊す事に。
祖母は数年後に亡くなったが、あの時の事は話してくれない。両親も、弟ですらなぜか教えてくれない。お互い、いいおっさんになって家庭も持った今でも口には出せない。