【怖い話】建設現場に埋まっていた骨壺と謎の老人

今から18年半ほど前に仕事で、老人ホームの設計を依頼された。その当時、俺は東京のT市に住んでおり(今も同じだが)依頼の場所は、俺の住むT市の隣M市だった。ちょうどその時は、H市の病院の増改築工事の設計の仕事をしており、掛け持ちでやる仕事としては、立地的に現場から現場への移動、そして自宅から向かうにも楽な場所であったため、快くOKの返事をだした。そして打ち合わせのために俺は呼ばれ、初めてその現場に向かうことになった。

自宅から車で約15分程で付くだろうと思い、車でO環状を走り10分程走り指定された脇道へとそれ、坂道を上ると正面にM斎場があり、M斎場の脇の私有地を抜け、現場らしき場所にたどり着いた。今考えると、もの凄い立地条件だ。斎場からわずか300m程の場所に、老人ホームなんてあまり気分の良い物ではない。近くには葬儀屋まであるし、それ以外はなにもありはしない。

それから何事もなく打ち合わせも終わり、俺は関係者の見送りをすませ、最後にその場所から立ち去ろうとすると、一人の爺さんが老人ホームの建つ方向を眺めていた。散歩でもしてるのか?気になった俺は、その爺さんに話しかけてみた。
「お散歩ですか?」
すると、爺さんはいやいやと首を振り、逆に俺に話しかけてきた。
「ここには何が建つのですか?」
そう聞かれた俺は、看板を指さし「老人ホームが建つんですよ」と答えた。

爺さんは
「ほーこんな静かでいい場所に建てるんですか、私も出来たらこんな場所で余生を過ごしたいですね。」
そう聞いた俺は、半分嫌味も入っているのだろうなと思いながら答えた。
「場所的には縁起がよくないかもしれませんね」
爺さんは笑っていた。病院の現場に向かう事もあり、俺はそれではと言いながら車を発進させ、後ろを何度も気にしながら俺は、病院へと急いだ。

それからしばらくして、基礎打ちのための掘削に立ち会う事になり、俺は現場に向かった。俺の到着を待っていたのか、掘削のためのユンボ2台のオペレーターが、俺のほうに向かってきた。一人はよく一緒に現場で仕事をしているために、笑いながら「またよろしくお願いします」そう挨拶してきた。(Iくん)もう一人は今回が初めてのため、緊張した面もちで「よろしくお願いします。」と挨拶した。

一通りの打ち合わせを終えて、掘削を開始した。掘削を初めてから3時間ほど経っただろうか。顔見知りのオペレーターが運転するユンボが動きを止めた。Iくんは、自分が掘削したばかりの場所へと降りていった。どうしたんだろう?俺はそう思い、ユンボのほうに向かった。その時、掘削で地盤が緩んだのか、ユンボのキャタピラ部分が崩れだしてしまった。その衝撃で、固定していたはずのユンボのヘッドの部分が、I君に直撃してしまった。

あわてた俺は、もう一人のオペレーターに大声で「ユンボのヘッドを引き上げてくれ!」そう告げて、俺もI君のいる場所へと降りていった。幸いな事に、I君は腕を強打しただけですんでくれた。俺は何でいきなり下に降りて行ったのかを聞いた。すると、I君は「自分がヘッドを向けた場所に、お爺さんが居たんです。危ないと思ってユンボを止めたら誰もいなくて、気になってそこを確認しようと思って下に降りたら、ユンボが傾いちゃって」すいませんと言いながら痛みをこらえているようなので、俺は現場代理人にI君を病院に連れていく事を告げ、病院に向かった。

治療も終え、骨にも異常がなかった事から、俺とI君は現場に戻ることにした。夕方、現場に戻ると作業が中断していた。どうしたのかと思い、代理人に事情を聞くと「いやー、さっきI君が怪我した場所を掘ったら、妙な物が出てきてしまって」そう言って指をさした。

指さされた場所を見ると、古びた壺のような物があった。代理人に聞くと、「骨なんすよ、骨壺ですね。」俺ははっとして、「他には何も出てない?」と聞いた。工事現場で致命的な事は、その場所から遺跡がでてしまう事なのだ。代理人は「取りあえず、あれだけですんで」それを聞き、俺は安心した。

骨壺の状態からかなり古そうであり、殺人などはないだろう。不謹慎だけど、工事現場では出来るだけささいな事はもみ消す事になってしまう。遺跡や事件にかかわるとどうしても、工事日程がくるってしまう。それは関係者としては避けたいのである。 現場責任者を呼び、相談した結果骨壺を少し移動して埋葬する事になった。掘削場所から10m程離した場所に穴を掘り、骨壺をきれいにしてから埋葬した。当然、線香やお花もそえて。

それから工事はトントン拍子で進み、1階部分が完成した。しかし、1階部分が完成してからこの現場では妙な事が起こり始めた。ある場所に限り、事故が多発しだしてきた。死亡事故にまでは発展しないが、指の切断、脚立からの転落による骨折、転倒した弾みで鉄筋に肩をぶつけて貫通、落下物による頭部裂傷、一歩間違えば・・・

1ヶ月の間にその手の事故が11件も起きてしまい、関係者の間で「あの骨のせいなのだろうか」と言う話が出始めた。俺もその可能性はあるのだろうなと思わざるえなかった。会議で現場の休日に、お祓いをしてもらうことになった。お祓いの当日、外部から見えないようにブルーシートを使い、その場所をぐるりと囲んだ上で、お祓いは行われた。これで、事故が無くなってくれればいいのだが。

事故は減った。でも、無くなる事はなかった。どうしてこの場所だけ起こるのか、この施設が完成したらどうなるのか。完成すると、ここは風呂場になる。老人の転倒、洒落にならん。そんな事を考えつつ、数日が過ぎた日。I君から会社に電話があった。

俺に話があるらしい、嫌な予感。現場事務所で待ち合わせる事にしてI君を待っていると、時間通りに来てくれた。結構深刻そうな顔をしている。「どうした?」俺はI君の顔を見ながら聞いてみた。すると、I君は「あの事故から変なんですよ」そう言って話しはじめた。

「事故の直後は、こんな夢は見なかったんですが、ここんとこ毎晩同じ夢なんですよ。」
おお、何か面白そうだ。俺はそう思い、続きを聞いた。
「夢であのお爺さんがでて来るんですよ。それが工事途中のあの現場に居るんです」
居るかもな、そう考えながらも話を聞いてると、とんでもない事を言いだした。

「現場であのお爺さんが、Mさんの背中にしがみついてるんですよ」
それを聞いて俺は思わず、叫んでしまった。
「何で俺なの?ねえ何でよ?!」
たじろぎながら、I君は
「嫌、俺にもまったく分からないんですよ」
そりゃそうだ、原因がわかれば俺の所にも来ないだろうしな。だからといって、そんな事を言われても困る・・・

「どうしてもMさんの事が気になって、今日訪ねてみたんですけどね」
それからI君は、現場で線香をあげたいからつき合ってもらたいと俺に頼んできた。そんな話をされた後に断れるほど、俺は強くはない。今から向かえば6時過ぎには、現場には行けるだろうから、すぐ向かう事にした。

現場に向かう車の中で、I君が見たと言う爺さんの話を聞いてみた。
「なあ、I君が見たっていう爺さんなんだけどさ、どんな感じの人なの?」
すると、I君は夢で何度も見ている事から詳細に話してくれた。髪の形、年齢層、着ている物、冷や汗ものだった。俺が最初に話をした爺さんだ・・・現場に着くまでの間、他の話で紛らわせる事にした。

そして現場に着き、I君は埋葬場所に向かった。俺のほうはどうしても気になり、外装の完成した風呂場に向かった。骨壺を移動した事がいけなかったのかな、そう思いながら風呂場を見渡した。

しばらくすると、外からI君の声がした。
「Mさん終わりました、帰りましょう。」
それを聞いて俺は「おー」と返事をして、外に向かおうとした。その時、突然足が動かなくなった。

どう説明していいのか、こんな感じは初めてだった。簡単に言うと(プチ金縛り状態)動かん。しだいに腰まで重くなってきて、とうとうその場に倒れ込んでしまい、焦りながら何度も立ち上がろうとした。腰のほうに目を向けても何も見えない。

すると、カタンと音がした。音のするほうを見ると、立てかけてあったスライダー(多段ばしご)が俺の背中に向かって倒れてきた。直撃はしたものの背中だったため、たいしたダメージはなかった。スライダーの倒れる音に気が付いて、I君が来てくれた。
「大丈夫ですかっ。」
そう言いながら、I君は俺を助け起こしてくれた。

ただ、おかしかったのがI君で、俺を助け起こした後に、どうしたんですか、とは聞かずに
「Mさんも線香あげたほうがいいですよ」と言ってきた。
気にはなったが、I君の言うとおりに俺も線香をあげることにした。線香をあげたあと、俺とI君は現場を後にすることにした。

その帰りの車中で、I君がいきなり俺に謝り始めた。
「すいません、俺のせいで怪我させて」
「気にしないでいいよ」
俺は笑いながらI君に言った。
すると、I君は
「さっき、本当はMさんの背中にお爺さんが乗ってたんです。」
それを聞いたとき、俺は思わず急ブレーキをかけてしまった。マジでビビった。

近くのコンビニに車を停めて、俺はI君に聞いてみた。
「俺と爺さんは何か関係あるの?」
すると、I君は
「自分でもわからないんです。ただ、Mさんはあの現場には近寄らないほうがいいような気がします。」
そう言われて俺は素直に、完成するまで建物内に入る事はしなかった。

老人ホームは完成した。大きな現場ではなかったが、それでも事故の件数は俺が担当したなかでは一番多かった。29件の内28件が風呂場だった。

余談だけど、骨壺の件は現場関係者しか知らない。もう誰もあの場所に骨壺が埋まっている事など知らない・・・
何も起こらないでね。お願い。

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