良い憑き神と悪い憑き神

ある村の外れに年老いた両親と暮らす娘がいた。離れて暮らしている猟師である二人の兄達は、狩りをしてもあまり食べ物を分けてくれないので、娘と両親はいつもお腹を空かせていた。

ある日、父親が娘に、隣の村へ行って宝物と引き替えに食べ物を分けて貰って来てくれ、と頼んだ。娘はそれを引き受け、父に道筋を教えてもらい身支度をした。隣村は川の上流を登り山を越え、別の川を下った所にあると言う。

娘は山道を登っていると、神々しく美しい桂の木を見つけた。その周りには小さな桂が何本も生えていて、まるで子供のように見えた。娘は簡単な祭壇を作り、背丈の低い桂の木の1本を桂の木の娘に見立て、頭の部分に自分の鉢巻を半分に裂いたものを巻いて、桂の木の女神に道中の無事を願った。

村に着くと、村おさの家の人達は娘を暖かく迎え入れ、沢山のご馳走を振る舞った。翌朝、その家の息子達が干し肉や干し魚などの食料の束を縛ってくれて、荷物を持って家まで送ってくれる事になった。娘の暮らす村が近くなると、なぜか昨日作った桂の祭壇を見られるのが嫌だと感じ「ここまで来たらもう一人で帰れます。」と言って帰ってもらう事にした。息子達もすんなりと帰ってしまった。

すると、昨日祭壇を作った場所に一軒の家が建っているではないか。近づいてみると中から黒い鉢巻をした美しい娘が迎えてくれ、「昨日は本当にありがとうございました。私の欲しかったマタンプシ(鉢巻)をあなたは知っていたかの様に自分のを半分に裂いて私にくれました。」家の主は娘は桂の木の女神の娘で、今までの事は女神の娘が見守ってくれたお蔭であったのだ。

女神の娘は、一生娘の守り神になってくれる事を約束し、「結婚相手にふさわしい若者を行かせるので結婚しなさい。親不幸な兄達には悪い憑き神がついているので、恨まずに、あなた一人で親孝行しなさい。」等と告げた。娘は家に帰ると事の経緯を両親に話し、丁重に桂の木を奉った。やがて娘は狩りの腕の良い若者と結婚し沢山の子供もでき、何不自由なく幸せに暮らしたとさ。兄達はと言うと、狩りが下手になり、貧しい暮らしになったとさ。

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