まだ私が高校生だったころ、町に不思議な家があったの。見た目は普通の家なんだけど、その家に引っ越してくる人たちは、どの人もすぐに出ていてしまっていて、6カ月以上続けて住んだ人はいなかったようだった。
ある晩、暇だった私は、友人とその家を探検しに出かけた。その時は誰も住んでいなかったし、まあいいかなと思って。友人が犬ドアから家の中に入って、鍵を開けてくれた。
私たちは家の中を見て回ったあとに、台所の床に腰を下ろして「なかなか素敵な台所だね」なんておしゃべりしていたとき、突然、友人が叫び声をあげたの。「なに?」と思った瞬間、私の目の前は真っ暗になって、なにかベトベトした冷たいものに全身をスッポリと包まれたのが分かった。何も見えない中、友人があらん限りの力で私をどこかへ引っ張って行っていることだけが感じられた。
その後、徐々に視界が戻ってきて、暖かさを感じ始めたときには、自分がその家から脱出して、外にいることが分かったの。まだ12月だったけれど、あの家の中よりも、外の方がずっと暖かく感じられた。友人にあの瞬間、何が起こったのか聞いてみたら、女の子のような形をした真っ黒い影が、私の上にかぶさったのが見えたことを教えてくれた。あんなに暗くて、冷たい感触を感じたことは後にも先にもない。