私が21歳の時の話。ある朝、中学時代の友達から電話が来たんです。
『ね、私の友達が困ってるんだ。みてあげてくれない?』
私は最初は断りました。みてあげてくれないと言われても、何にも力とかがある訳ではなかったし‥初対面の人に何を相談されるのかな‥と考えただけで、あまり良い気がしなかったので…
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しかし、友達があまりに必死に頼み込んでくるので、仕方なく一緒に友達の知人宅に向かう事になりました。その女性は、高級マンションに住んでいました。2人のお子様と優しそうな旦那様 (旦那様は写真で見ただけですが)、幸福そうな空気を破る様にその女性の話が始まりました。
その女性には、五歳の女のお子様と乳飲み子の男のお子様がいました。夜、気付くと五歳のお子様が押し入れの方向をジーッと見つめて座り込んでるとか。その女性は昔、婚約までした男性がいたそうです。お腹には‥五歳のお子様が宿ってました。しかし男性が不治の病だと解って、2人は心中を決意したそうです。
田舎町にある旅館で2人は最期の夜を過ごしながら、次の日に旅立つ世界で永遠に愛を誓おうと約束したとか‥。しかし、女性が目を覚ました時には、相手の男性は先に自らの命を絶ってしまっていたらしいんです。
遺書には『やはり愛する君を道連れには出来ない。お腹の子供と一緒に、生きて幸福になって欲しい。』という言葉を残して。女性は婚約までしてた事もあって、お葬式の後、遺族の方と共に骨を拾う事を許されたとか‥。その時、彼の骨の一部分が余りにも白く透明で綺麗だったからと言う理由で、コッソリ骨を持って帰宅してしまったんです‥。骨と残された遺書を時々取り出して見ていたとかで‥。
年月が過ぎて女性は旦那様と出逢い、全てを知っても受け入れられ結婚しました。しかし骨と遺書は捨てられなかった。一度、旦那様に見つかってグシャグシャにされた事もあったそうですが、やはり捨てられなかった。お子様が見ていた押し入れの方向は、その骨と遺書が大切に隠されていた場所だったんだそうです。
同時に女性自身も夢で毎晩、元恋人が『やっぱり一緒にこっちに来てよ‥寂しいよ‥。娘と来てよ。』と呼びかけて来る事が怖くなったと私に相談して来ました。骨も見せられた私はゾッとした事を覚えてます。『このままじゃ子供が心配で』そう言いながら彼女は愛おしそうに骨を見つめていたんです‥。
何年の間、亡き元恋人の骨と遺書を大切にしていたかは解りませんが、彼女の骨を見る表情はとても異常に映りました。『ね?綺麗でしょう?あの人の骨‥ね?ね?手元に置いていても‥大丈夫よね‥?』ますますゾッとする私と友達。見たくなかったけど、目の前にずずっと骨を差し出された私の目に知らない男性の顔がパッと浮かんだんです‥気のせいかとまばたきしたくらいに鮮明に。その表情はまるで何かに捕らわれ、もがき苦しんでるかの様に見えたんです‥。数分間の間、友達と私は沈黙したまま。まぁ私はとんでもない物を見せられたなぁと思ってた訳ですが…。
その間、ずっと彼女はブツブツと独り言なのか話しかけてるのか解らない台詞を口にしながら骨を持ったり机に置いたりの繰り返し。友達が沈黙に耐えかねた様に私を肘でつついて来ます‥。正直言って私も困ってしまいました。でも一つだけ彼女にキッチリと告げたんです。『今から墓を開いて骨壺に骨を返せなんて、出来ない事を言っても仕方ありませんが‥いくら愛した人の骨だからと言って、黙って持ち出した事は絶対に良い事じゃありませんよ?考えてみて下さい。例えば貴方が生きながら足をもぎ取られたとしたら、どう思いますか?』
彼女は急に黙り込んだまま微動だにしません。続けて私は言いました。
『生きていようが死んでいようが体を勝手にバラバラにされたら嫌でしょ?何をするんだって思うでしょ?生前に貴方に骨をあげると約束したなら話は別です。でも彼は貴方にお子様と貴方自身の命を残して逝かれた訳ですよね?遺書だけを持っていたなら、こんな大変な事にはならなかった筈だと思いますよ‥?お子様がどうにかなる前にこれから言う事だけは、きちんと行って下さい!』
一気に彼女に告げました。『私から彼を奪うの‥?ううん‥あの子を助けて‥。』言ってる事がバラバラになり出しました。友達は震えて泣き出す始末。私も部屋の空気が急におかしくなったのを感じたくらいでした。でも続けて告げたんです。『いいですか?お墓の敷地内には必ず土の部分がある筈です。そこにスコップで掘れる位でよいから穴を掘って骨を埋めて下さい。彼から奪った一部分をきちんと返してあげて。お子様を連れて逝かれても良いの?』
たたみかける様に彼女に言葉を告げた私でしたが…。言い終わると同時に左手首につけていた2つのパワーストーンの一つが弾けて砕けたんです。かなりビビりました(-“-;)でも彼女の様子が突然、嘘みたいに大人しくと言うか…普通に(?)戻ったんです。本当に突然。
『私は霊能者でも無いし‥プロの様な力はありません。ただ生きていても死んでいても、人ならどう考えるか?どう感じるかって考える様にしています。元恋人を亡くされた悲しみは、とても私には解らないくらいに強かったと思います‥。でも本当に彼を愛していたなら‥ね?解りますよね?』静かに言い聞かせたんです。
彼女は泣きながら頷きました。必ず元恋人のお墓の敷地内に骨を返すと。一度も連れて行った事が無い五歳のお子様とお墓にお参りすると約束して下さいました。私は彼女が落ち着いた頃を見て、友達と共に帰途に向かった訳なんです。その後に本当に彼女が骨を返しに行ったかは、実は私は知りません。友達からあの時の彼女は元気になったと聞かされただけです。
愛し合った人の不治の病に嘆き悲しみ、心中まで決意した矢先に、彼だけが黄泉の国へと旅立ったと言う事は彼女の心からは決して消し去る事が出来ない傷として残るのだろうとは思います‥。骨を見た時に浮かんだ男性は本当に元恋人さんだったのか‥?
何だかまとまりが無い体験談になりましたが、読んで下さってありがとうございました。よく海に骨を流すとか色々な散骨の方法はありますが、生前に本人が望んでこそ、して良い事だと思います‥。私は時々みえない筈の何かをみてしまう事はあります。でもプロでも無いし力もありません‥。ただどちらにしても、それが人だったならば‥と考えてしまうだけです。
これは実話です。
皆さんなら恋人に骨を持って行かれても許せますか?
終わり