恐い話かぁ。1つあるよ。長いからダレちゃうかもだけど。俺の友人Aが同人の絵描きさんしてまして、俺はAのアパートへ、たまに遊びに行ってた。まあ、俺が行った時はAの為に買い物行って何か買ってきてあげたりして、後はゴロゴロしてるって感じなんだけどね。
で、ある日の事。久しぶりに俺は別の友人Bと共に、Aのアパートへ行ったんだ。んで、Aと俺達は雑談したんだけど、Aが妙な事を言った。「なんか夜に1人で部屋に居ると、俺の他に誰か居るみたいな感じがするんだ」
まあ、俺達はAがイラスト描くのに没頭し過ぎて疲れてるんだと思って、少し休んだほうがいいよ、って言って終わらせた。
で、それからまた3~4日ぐらいしてからかな?また、俺とBはAのアパートへ行った。でも、ちょっと変なんだよね。Aの奴、トイレに篭ってる。ってか立て篭もってる。なんだ、どうした?ってAに話しかける俺達。すると、Aは
「本当に○○(俺の名前ね)とBなんだな?本当だな?」
と言って、やっとトイレから出てきた。
トイレから出てきたAは、やたらと怯えている。なんだよ、どうした?って聞いても、暫くは口もきけない感じだった。そして、俺達に
「ここを出よう、早く!」
とまくし立てる。俺達は意味も分からず、取り敢えず車で近くのファミレスへ。ファミレスでAから聞いた話は、以下のようなもんだった。
前の日の晩、Aは張り切って絵を描いてた。したら、何だか台所で人の気配がする。疲れてて、そんな気がするだけだと考えて、絵描きを続行した。そしたら突然、台所と部屋を仕切ってる引き戸が、凄い勢いで開いた。引き戸に背を向けて作業してたAは固まった。後ろを振り向きたいが動けない。どうしようと考えてたら、突然後ろからヌゥと、引き戸を開けた奴が自分の顔を覗き込んで来た。
ソイツは息が掛かるぐらい顔を近づけて、パソコン画面とAの間に顔を出し、Aを見つめた。いや、見つめるって言い方が正しいかどうか・・・ソイツは目が無かったらしい。目がある部分はポッカリと空洞になっていて、顔も紫色って言うか、腐ってたそうだ。その時点で、Aはやっと体の自由を取り戻して、ダッシュで玄関から脱出しようとしたそうだ。
だが、何故か玄関の扉が開かない。残る脱出口である窓は部屋にあるが、その部屋には例のヤツが居る。ソイツは玄関の扉を開けようと焦ってるAを、部屋の中からずっと見てた。いよいよヤバイ。そう思ったAはトイレへ逃げ込んだ。トイレなら鍵が付いてるって事で、逃げ場にトイレを選択したとの事。Aがトイレに入って鍵を掛けると同時に、凄い勢いでトイレのドアをガンガン乱打された。そこで、Aは気絶した。
次にAが気付いたのは、俺達が来た時なんだそうだが、まあ当然俺達だってそんな話を全部信用する気にはなれなかった。
「絶対それは疲れから来てるんだって、暫く絵を描くの休んだらどうなんだ?」
って言ったんだけど、Aは
「絶対見た、あれは幻覚なんかじゃない」
と言い張る。
まあ、その幽霊が実在してるかしてないかは別として、生活道具その他を部屋に置きっ放しな訳だし、部屋に戻らない訳にはいかない。その日は、Bの家にAを泊まらせる事にして(Aが、夜に帰るのを頑なに拒否した)明るくなってからAのアパートに行こうって事で解散した。
そして次の日。俺・A・Bの3人はAのアパートへ乗り込んだ。俺とBは、何もいねーじゃん、とAを元気付けようとしたんだが、Aは怖がるばかり。こんな部屋もう居られない、解約して退出する!の一点張り。幸い、Aの親戚だかが近くに居るとの事で、Aはそこへ避難する事になった。 俺達3人は口数も少なく、手早く衣類だのパソコンだの原稿だの(ここで原稿を忘れないところ、流石はA)を整理した。で、そろそろ作業も終了という感じになった時。
トイレのドアが、内側から「ドコッ!」と殴られる音がした。A、アパートからダッシュ逃亡。俺とB、唖然。俺とBも、荷物持って急いでアパートを出た。トイレの中は、覗く気になれなかった。アパートを出た俺達は、やっぱりファミレスに集合。まあ、ああいうのって大概、過去に部屋で死んだ人が住み着いちゃってる系なんだろうし、部屋から脱出したからもう大丈夫だろ、なんて語り合ってた。でも、実はそうじゃなかった。
つまり、幽霊は部屋じゃなくてAに憑いてた。何故ならそれから更に数日後、親戚の家で寝てたAの所に、例の幽霊が訪問しちゃったんだそうだ。その時、Aは布団に寝てたんだけど、やっぱり部屋のドアを勢い良く開けて部屋に入ってきた。で、Aの枕元に立ってお辞儀するみたいな格好でAを覗き込んだ。
Aはビビッて親戚の寝てる部屋へ逃亡。だが、幽霊は変な声?を出しながらAを追跡して来た。その結果、親戚も幽霊と接近遭遇。2人仲良く絶叫。親戚にも、バッチリ見えちゃったんだね。まあ、進退窮まったAは、こりゃもうお祓いしか無いって事になったんだけど、親戚の母親が良い人を知ってるってんで、紹介して貰ったんだそうだ。で、その人(Dさんって事にしとくね)の所に行ったAは、Dさんに無茶苦茶怒られた。
怒られたって言っても、事情を話して怒られたんじゃなくて、Dさんと顔を合わせた瞬間に
「何を連れてるんだ、あんたは!」
と唐突に怒られたらしい。不条理極まりない。でも、見える人ってのは見た瞬間に分かるって言うし、Dさんには何か見えたんだね。
結局この幽霊はどっから来たかって言うと、Aは数週間前に某心霊スポットに友人と肝試しに行ったんだそうだ。そこで、付いて来ちゃったらしい。憑いてたのは残念ながら”目が空洞になっていて、皮膚が腐敗している男”。お祓いは何とか出来たらしいんだけど、この幽霊、中々厄介な相手だったそうだ。しかも、怒ってたんだと。何で怒ってたかって言うと、幽霊が怨んでる相手とAがソックリさんだったらしい。
なんでも幽霊は明治時代だかの人で、Aのソックリさんに、かなり酷いやり方で殺されたらしい。しかし、幾らソックリさんだって言っても、で、凄いなって思ったのは、Dさんが、その幽霊は生きてる頃、ドコソコに住んでて、こんな仕事してた人だって事まで言い当てちゃった事。あまり詳しくは言えないんだけど、Dさんが言ったその場所ってのは、確かに存在してた。存在してた、って言い方になるのは、その場所の地名が既に変わってるから。まあ明治時代の幽霊だから、当時の地名を言ったんだろうね。そして、幽霊がしてた仕事ってのは、その地で結構流行ってたって事実もある。
何で俺がそこまで知ってるかっつーと、そこってAの父方の地元だからなんだ。但し、Aの父方の地元は、その心霊スポットから数百キロは離れている場所。何でまた、そんな縁もゆかりも無い心霊スポットに、その幽霊が出たのかは謎。もしかしたら殺された場所が、その心霊スポットなのかも知れないね。
取り敢えず、AもBも俺も親戚の人も、いまだに元気です。ただ、Aは2度と心霊スポット巡りには行きたくないって言ってます。あと、夜は電気点けたままで寝るようになったそうです。