「三途の川」へ行った時の話

これは昔知人から聞いた話。知人が中学生の頃、1学年上の先輩(女の子、Aさんとします)が体育の授業でバレーボールをしている時、突然目の前が真っ暗になったそうだ。しばらくして気がつくと、どんよりした曇り空で霧が立ち込める、ただただ広く一面荒れた荒野の様な場所に立っていた。独りぼっちが寂しくてあてもなく歩いていると、後ろから話し声が聞こえてきた。振り返ると、自分と同世代くらいの制服を来た女子2名が歩いてきたという。


人を見つけたのが心強くて「良かった~誰もいなくて心細かったの」と話すと「私達あっちに行くんだけど、ついて来る?」て言うので
同行した。話しているうちに同じ中学3年生と言う事が分かり、仲良くはしゃぎながら歩き、川原に着いた。すると「あそこだよ」と2人が指差した。見ると霧の中に柳が1本揺らいでおり、古い手漕ぎの木の舟が川に一隻停泊していて、柳の下には擦り切れた笠を被って着古した服を着た、痩せ形のお爺さんが煙管を吸って俯いていた。

仲良くなった女子2名は「私達ここから舟に乗るんだ」と言って、お爺さんに「すいませ~ん、お願いしま~す!」と声をかけた。お爺さんは無言で手を出した。女子2名は制服のポケットから小銭を出して料金を払うと、Aさんに「一緒に行こっ!」と言ったが、Aさんはお金が1円も無かった。お爺さんが「この舟は金が無い奴は乗れねぇよ」と言い、3人で行きたいと主張したが許可は下りなかった。

仕方ないので2名は「私達先に行くけど、またあっちで会おうね~」と言い、お爺さんが舟を出してその場にはAさん1人が残った。Aさんは寂しくなり、また1人で歩いていると山があり、山の入口には朱色の大きい門があった。Aさんは中に人がいる事を期待して力ずくで門を開け中に入ると真っ暗な洞窟の様な空間だった。

少し歩くと先に、洞窟の両脇がポツポツと光っておりそれが長く続いているのに気がついた。近付くと雛段が両脇に長く並んでおり、そこには火の灯ったロウソクが無数に立っていた。ロウソクは太さも長さも全く異なり、今にも消えそうな物もあれば、煌々と灯ったものもあり
白いロウには、それぞれ人名が墨字で記入されていた。

Aさんは気味が悪いけど前進し、ロウソクの道を進むと後ろからボソボソと囁き声がした。何を喋っているか分からないけど、複数人で何やら焦ってガヤガヤ騒ぎながらこちらに走ってくる足音がした。Aさんは人に会いたかったのに、走って向かって来る人達に見つかるのが強烈に恐くなり走り出した。

走っているとロウソクと雛段は無くなり、真っ暗闇に変わった。先には白く丸い出口の様な一筋の光を見つけ、一目散でそこに辿り着き光に飛び込むと掃除機の様にスルッと吸いこまれて意識を失った。Aさんが目を開けた時、病院のベッドの上で、お母さんが泣きながら「Aちゃんが目を開けたー!」と大声で叫んだ。

Aさんは目を覚ましても尚、入院生活を続けることとなった。授業中、心臓の欠陥が原因の発作で倒れ、危険な状態が1~2間続いたんだそうだ。お母さんが「普段無口で家にいないお父さんが会社休んでつきっきりだったんだよ。Aが目覚めた時に、寝てた間の事が分かるように置いておく」と言ってベッド横の机に地方新聞の4日分を置いておいたらしいと聞いた。

Aさんは「中学生は新聞なんか興味ないのに」と思いながら倒れた日の夕刊をペラペラめくった。すると地方のニュースの欄に【早朝、○市の女子中学生2名が原付自動車で事故死】(Aさんとは同県だが遠い市街)の記事を発見し、読むと原チャに無免で2人乗りして走行した少女2名が転倒により即死の記事を見つけた。

慌てて翌日(Aさんが倒れた日)の新聞のお悔やみを見ると舟着き場で別れた2名の少女の名前があり「事故死」と書かれていた。Aさんは、お母さんに「夢の中で、私、仲良くなった子達がいて名前を教えあったんだけど、この子達の名前だよ!間違いないよ」と言って経緯を話した。お母さんは「その子達がお金を持っていたのは、多分最後に棺に入れるお金でそれは別の世界に行く為の舟に乗る料金なのかもね・・Aちゃんがお金を持ってなかったのは【まだ行く時ではない】って事だったのかしらね。ただの風習ではなく、昔の人達はそう言う事を知っているから棺にお金を入れる様になったのかもね」とAさんの言葉を否定せずに聞いてくれた。後日お母さんとAさんで亡くなられた2人のお墓に参りに行ったそうだ。

私は実名を聞いたけど、ここで言わない。何だか怖くはなく「そうなのか」と考えさせられる話だった。聞いてから6年経った今でも忘れられない話です。

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