俺の家族は代々猟をしていてその技術を受け継いでいる。それは俺が小学生の冬だった。じいちゃんとおやじが俺も猟に連れて行くということで、かんじきなどつけて雪山に歩いていった。そのときじいちゃんはなにか険しい表情をしていた。
犬を使う猟を得意としていたうちの家系は、家族のように猟犬を飼っていた。このときは甲斐犬3匹つれて追い込み猟をするということだった。俺は寒さに震えながらついていった。
だいぶ森に入り、じいちゃんがさっそく鹿の足跡を見つけたようで「近いぞ、準備せい」と強く言う。オヤジは犬の猿ぐつわをはずす、、犬は鹿の気配を感じ取り盛んに吠え始めた。この声で鹿たちを川に追い込みしとめるのが追い込み猟の基本だ。ここからじいちゃんと俺と犬2匹、そしてオヤジと犬1匹の二手に分かれて鹿を追い込みに入った。俺はじいちゃんの後ろについて、犬2匹を必死に連れて歩いていた。中型の甲斐犬とはいえ、獲物を感じているそのときは普段と違い本能むきだしで怖さも感じた。俺にはみえなかったがじいちゃんは獲物の位置をしっかりわかっていて着実に歩みを進めていった。
遠くからはオヤジの連れてる犬の声が聞こえてきている。すこしたつとじいちゃんの歩みが止まった。しきりに遠くを見て何か危険を感じているがその表情から伝わってきた。おれはじいちゃんの恐怖を感じて凄く怖くなりだした。そこでじいちゃんが言った。
「今すぐ猿ぐつわをしろ。。。」
俺は、腰にかけていた猿ぐつわを暴れる犬に急いではめた。吠え声がなくなりあたりが静かになる、まだ遠くからはオヤジが連れてる犬の声が聞こえる。じいちゃんは一言言った、「マズイ、まだ気づいとらんな・・・行くぞ、親父と合わな」
じいちゃんはかなり早く移動しだした。途中、オヤジの連れてる犬の声が途絶えてる事に気づいた。じいちゃんはオヤジと犬の足跡をみつけ追跡を始めたが、少したつと雪の足跡が荒れ始めてるらしかった。オヤジと犬、それ以外の何かの足跡が一緒に歩いているとじいちゃんには分かっていたのだ。だんだんじいちゃんの表情が酷く険しくなり俺は心から恐怖を感じ、のどが焼けるように痛いほどゼイゼイなっていた。
雪に黒いシミのようなものがたれているのに気づいた。それは徐々に大きくなっていっている、血にしてはあまりに黒すぎる。じいちゃんは大きな木の下で止まると言った。
「お前はここで犬とまっとれ、猿ぐつわははずしておけ、」
そういうと俺と犬1匹を置いて、小走りに大きいほうの犬をつれて雪道に消えていった。
俺は恐怖におそわれたが、犬をなでていると落ち着き始めた。シーンと静まり返る雪山の中で、遠くから物音が聞こえ始める。カーーーンッ!!カーーーーンッ!!シーンと静まる。そしてまた、カーーーーンッ!!カーーーーンッ!!また静まり返る・・・。それからすこしたち、オヤジがじいちゃんを肩にかついで歩いてくるのが見えた。犬は1匹もいなかったが、俺は無事に帰ってきた2人の姿をみて大きく胸をなで下ろし駆け寄った。どうやらじいちゃんは足に怪我をしているようだが、なんとか歩けるようだった。オヤジは「急いで帰るぞ」そう言うと、後ろを頻繁に振り返りながら足早に家路に着いた。
その時何があったのかはいまだに謎だ。じいちゃんたちはしばしば、山にいる妖怪たちの昔話のようなものを聞かせてくれていたので、それに関係あるかもしれない。それにしても不思議な体験だった。
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>その時何があったのかはいまだに謎だ。
な、なんだってー!