祖母がまだ小さかった頃の話だ。遊び道具なんてまだほとんど無かった時代、祖母は友人のMちゃん、Yちゃんと一緒にいろはカルタを手作りしたらしい。三人で読み札と取り札を作り、さあ遊んでみよう、となったそうだ。最初の一回は祖母が読むことになり、MちゃんとYちゃんが札を取ることになった
「い ぬも歩けば棒に当たる」
「はいっ」
「そ ですり合うも他生の縁」
「はいっ」「あ、取られた!」「あはははっ」
他愛も無いやり取りをしながら、あっという間に読み札は全部読み終わってしまった……のだが、何故か一枚取り札が残っている。
「あれ?これ何だっけ」
Mちゃんが取り札を手に取るのにつられて、祖母とYちゃんも覗き込む。
そこには○囲いされた ん の文字と、吊された骸骨の絵が描かれていた。首に縄をかけて吊された骸骨は、そう、まるで首吊りをしているようだった。
「何これ、気持ち悪い」
「誰が描いたの?」
「私じゃないよ」「私でもない」「でも、私も描いてないよ、こんなの」
口々にそう言って否定し、三人で顔を見合わせる。やがてMちゃんが肩を竦め、「まあいっか」と札を屑籠に入れる。
……Mちゃんが亡くなったのは、それから3日後。物置小屋で遊んでいて、紐が絡まったまま天井の梁から落ちたそうだ。その話を聞いた祖母は屑籠を覗いてみたが、あの取り札はどこにも見当たらなかったらしい。