死者からの留守番電話

ちょっと前の電話器は、留守番電話を録音するためのカセットが入っていた。最新の電話を買った時、古い電話を取り外したのだが、壊れていないのでしまっておくことにした。半年ぐらい前、新しい電話のノイズがひどくなったので、古い電話器を取り出して仮に使っていたことがある。

留守電を聞く度に、テープを巻き戻して聞かなければならない昔の電話。当然、古いメッセージは上書きされて消えてしまう。ある晩、いきなりパソコン横の留守電が再生されたことがあった。もちろん、誰も触っていない。ガチャッ、ウィ−ン・・・勝手にテープが回りだして、気味悪くなった。機械類が勝手に動く話はよくあるんで、壊れたかな? 程度の気持ちで様子を見ていると、あるメッセージが再生された。


「妹が死にました。手紙を預かってるのでこれから届けに行きます。」
それは仲の良かった友人からの留守電だった。しかも、3年も前の留守電なのだ。友人の妹さんはなぜかわたしによく懐いていて、3人で遊んだり、悩みごとの相談にのったりもしていた。3年前の冬、その妹さんが入水自殺をしたのだ。

当時、妹さんが死んだという留守電を聞いてびっくりしたのだが、葬儀が遠方でわたし自身も都合がつかず、弔電を送っただけだった。自殺する直前、妹さんはわたし宛に手紙を書いたらしく、その手紙を届けると言ったきり、友人とも会う機会がなかった。手紙に何が書いてあったのか、未だにわからない。

そんな留守電がいきなり再生されて、とても怖くなった。再生されたのはそのメッセージひとつだけ。改めて彼女は死んだんだと思い知らされて、怖いような、切ないような気持ちになった。

・・・これから届けに行いきます。
もしかしたら、わたしの目には見えないだけで、今この場に彼女は来ているのかもしれないと考えた。

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