有名なF遊園地。売り物は絶叫マシーンだが、その絶叫マシーンのひとつに、出る のだ。
その日、友人たちは6人でF遊園地に遊びに行った。目的は、世界最速を誇る絶叫マシーン。6人のうちの一人「k男」はコースター物が大の苦手で、絶対乗らないと言い張ったが、周囲は面白がって無理矢理そのアトラクションの列に並んだ。30〜40分待ったあと、ようやく自分たちの番が来た彼等は前から順番に席についた。絶叫マシーンが大嫌いなk男が座ったのは前から3列目。発進する前からk男は顔面蒼白になっていた。その様子を見た友人たちは、悪ふざけのつもりでコースターが動いている間のk男をケータイのカメラで撮影する事にした。
コースターがお客で満席になると、安全バーが乗客の体を固定する。異変はその時から始まった。k男の安全バーが中途半端な位置で止まってしまったのだ。係員が乗客の安全バーが全て固定されているかチェックしに来たが、なぜかk男のことだけは見落としたらしい。k男の隣りに座っていた友人の証言では、安全バーとk男の間は確実に20センチ以上の隙間があいていたと言うのに。
k男はパニック状態になって係員を呼んだが、ちょうどその時、派手な音楽と共にコースターが動き出した。普通のコースターは発進時、ゆっくりと坂を登っていくが、このコースターは発進直後に時速100㎞以上になるという優れモノ。k男も、その隣りに座った友人も、振り落とされまいと安全バーにしがみついた。絶叫マシーンはあっという間にコースを走り抜け、やがてホームに戻ってきた。k男を笑っていた友人たちも、あまりのスピードに腰がガクガクしてしまい、やっと席から立ち上がった。自分たちがこれほどなら、k男は腰が抜けて立てないだろうと思っていた予想を裏切って、k男は誰よりも早くマシーンから降りていた。そして、友人たちが全員降りるのも待たないで、さっさとアトラクションから離れてしまった。
友人たちはk男の後を追って行った。嫌がってたわりには全然大丈夫そうじゃん、友人の一人がそう言うと、k男は震えるような声で怒鳴り返した。・・・・ヘンな女が俺の安全バーを外そうとしたんだっ!!
みんなは顔を見合わせ、同時に笑ったが、k男の隣りで撮影していた友人が自分のケータイを見ながら弁護した。k男の言っていることは本当だと。コースターが動いている間中、k男に向けられていたケータイのカメラには、k男の足元から伸びる二本の白い腕が映っていたのだ。ブレていて鮮明でもないが、やけに長いその腕は、確かにk男の安全バーを握りしめ、まるで安全バーを外そうとしているかに見えた。
あまりに気持ち悪かったので、映像はその場で消去されたが、以来、誰もk男に絶叫マシーンを無理強いしない。F遊園地に行く時は気をつけろ、それが、仲間内で密かな噂になってる。