神社に勤めていた頃の話。
わたしが勤めていた神社は地元でも有名な大きな神社で、毎日色んな参拝客が訪れる。観光バスでやってくる団体もいれば、個人で参拝する人もいる。個人で参拝する人の中には社に御供物を捧げる人もいて、そのほとんどはお酒を奉納していく。だが、時には意味不明な貢ぎ物もある。これはそのひとつにまつわるものだ。
ある日の夕方、わたしが境内に祭られた社の賽銭を回収して歩いていると、本殿裏に祭られた恵比須・大黒像の前に小箱が捧げられていた。小箱にはイルカをモチーフにしたペアのリングが入っていた。デザインもなかなかシャレていて、しかもプラチナ製だ。二つの指輪には「WITH YOU K＆S for」という刻印が入っていたが、どちらも新品だった。若い巫女さんたちに見せるとみんなが欲しがった。わたしが勤めていた神社では社に奉納されていたものは「おさがり」といって、神様に捧げられたあと神主や巫女たちが平等に分けて持ち帰る。物が物だけに男性陣は遠慮して、巫女たちの間でわけることになった。
ペアリングだから指輪は二つある。8人でジャンケンして最後に勝ち残った二人の巫女さんが男性用・女性用リングを一つずつもらって帰った。女性用リングを貰った女の子は次の日から指輪をはめて職場にやってきた。男性用リングをもらった子は彼氏に指輪をプレゼントしたと言う。二週間ぐらいの間、女性用リングを獲得した巫女さんは指輪をはめていた。ところが、いつの間にか彼女の指からドルフィンリングは消えていた。それに気付いたのは男性用リングをもらった巫女さんだった。
わけを訊ねると、あの指輪をはめてから男運が悪くなったと言う。彼女は三人の男性と友だち以上・恋人未満の関係を保っていた。その他に本命の彼氏もいたのだが、指輪をはめてからというもの次々に関係が崩れて、結局全員と別れてしまった。それがあの指輪のせいかどうかわからないが、アレをもらってすぐにこういう結果になってしまったので縁起が悪い。そこで妹さんにあげてしまったのだという。不思議な話もあるもんだと、その場はそれでおさまった。すると2〜3日後、男性用リングをもらった巫女さんが無断欠勤した。
欠勤の理由は彼氏に女ができてフラレたのがショックだった、というもの。彼氏にプレゼントしたドルフィンリングも突っ返され、彼女はそれを神社に持ってきた。ほどなくして、女性用リングを妹さんにあげてしまった巫女さんも指輪を神社に持ってきた。その指輪をはめていると縁起が悪いから、と、妹さんが返してよこしたという。ペアリングはまた神社に戻ってきた。これは呪いの指輪ですよ、巫女さんたちは口々に言い合っては気味悪がった。偶然じゃない？わたしが言うと、それじゃ試してみろということになり、今度はわたしがペアで指輪を持ち帰った。
「別れの指輪」なんて話はとうてい信じられなかった。が、試してみるのもちょっと怖かった。三日悩んで、結局当時わたしがつき合っていた恋人に指輪をプレゼントし、二人でペアリングをはめた。もちろん、この指輪にまつわる話しは内緒で。
わたしが恋人と破局したのは三ヶ月後のことだった。もっとも、それが指輪のせいだとは断言できない。あの頃のわたしは、とっかえひっかえ色んな人と交際するタチの悪い方だったから。しかし、そのまま指輪を持っているも嫌だった。恋人にあげてしまった指輪は破局とともに相手が持ち去ってしまったので、どうなるかはわからない。ともかく、自分の指輪だけは処分しようと思い、近所のリサイクルショップに売ってしまった。
一年ぐらいの間、指輪は店のショーウィンドウに売れ残っていた。その店の近くを通るたび、わたしは例の指輪が何だか気になって、売れ残っているかどうかを確認していた。異変が起こったのは一年以上経った頃だった。
売れ残ったリングの隣りに、同じデザインのリングがもうひとつ並んでいたのだ。まさか・・・そう思って店の人にリングを出してもらうと「WITH YOU K＆S for」という刻印が入っている。そう、わたしが恋人と別れるのと同時に所在がわからなくなってしまった、もう一つの指輪が戻ってきたのだ。
不思議な気分だった。ペアリングはずっと一緒にいたいということなんだろうか。やがてペアリングは誰かに買われていき、もう店にはない。
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神職のわりに素行の悪いのばかりで驚いた