ある村に、拝むと良縁に恵まれたり、夫婦仲が続くという噂のある「お地蔵様」がありました。
その噂を聞いたとあるカップルは、さっそく行ってみることにしました。その日は連休の最中でしたが、交通の便が悪かったため、噂を聞きつけてやって来たのは彼ら以外に2組だけでした。3組は、一緒にお地蔵様のある場所まで行くことにしました。
獣道のような場所をひたすら進むと、確かにお地蔵様はありました。ただし、なぜか3つも。3つもあるなんて聞いていなかった彼らは、せっかくなので別々のお地蔵様に拝むことにしました。彼らは中央のお地蔵様に、残りの2組は左右のお地蔵様に、それぞれ拝むことにしました。
目的を果たした彼らは来た道を引換しますが、とあるカップルの女性の方が何やら言いたそうにしています。しかし、帰りの電車に乗り遅れるかも知れないから、ということで、彼女を急かしました。結局、振り返らずに村まで戻り、何事もなく最寄りの駅まで戻ることができました。
3組のカップルはお互いの連絡先を交換し、お互いの結婚式には残りの2組を呼ぶことを決めました。そして、そのカップルは2週間後に入籍することになります。元々、婚約をしていて、長く夫婦仲が続くように、ということで例のお地蔵様のご利益にあやかろうとしていたのです。
さっそく残りの2組に連絡を取りますが、どちらも全く電話が繋がりません。仕方がないので、結婚式の招待状だけ送っておきました。数日後、返答は意外な人物から届くことになります。
それぞれのカップルの、どちらかの親から返事の手紙が届いたのです。内容は、どちらも似通ったものでした。その内容とは、「カップルが事故で亡くなった」ということでした。夫婦は悲しみに暮れましたが、親御さんからも「子供たちの分も幸せになって欲しい」ということを手紙に書かれていたので、予定通り式を挙げることにしました。
それから数年後、夫婦の間に生まれた子供が合宿に出かけているのを利用して、あのお地蔵様のある村へと向かいました。そこで、村長から驚愕の事実を聞かされます。
「あの山には嫉妬深い狐が住んでおって、仲睦まじい男女に呪いをかけるようになった。ちょうど、あなたたちがこの村に訪れたあたりからじゃ。」という話です。しかし、お地蔵様のご利益には敵わないようで、お地蔵様になりすまして呪いをかけるんだとか。その時になって奥さんは顔を青ざめさせました。
あの日、彼女は帰るときに一度だけ後ろを振り返っていたのです。彼女の目に写っていたのは、自分たちが拝んだお地蔵様以外の2つのお地蔵様が消えていた景色だったのでした。あの時見た3つのお地蔵様は、2つが偽物だったのです。
もし、自分たちが偽物に拝んでいたら、と思うと、夫婦は震えが止まりませんでした。