私たちは小学生の頃、近所の空き地に「花の種」を植えました。
数人それぞれが花の種を1種類ずつ持ち寄り、空き地の片隅に植えることにしました。私が植えたのは「パンジー」だったと思います。他にもさまざまな種類の花の種が植えられましたが、そのほとんどは咲くことがありませんでした。
花を咲かせたのは1種類だけ、友人の一人が植えた「彼岸花」だけでした。その友人はもともと体が弱く、花の種を植えた数ヵ月後に大病を患い、この世を去っています。
その頃から、彼の植えた彼岸花だけが順調に育ち、他に植えた種は芽を出すことすらありませんでした。
当時は、時期が悪かったり生育環境が良くなかったのだろうと大人たちに言われてきましたが、今考えるとそれはおかしいのではないかと思うようになりました。彼岸花が花をつけた頃、周囲の景色も様変わりしました。周りは雑草や花が生い茂っていたのですが、徐々に枯れ、姿を消していきました。あの彼岸花を残して。
結局、むき出しの地面に、1輪の彼岸花だけが咲いているという、異様な光景になりました。その空き地は子供たちの遊び場になっていたのですが、その光景の不気味さと、付近に公園ができたことでそちらで遊ぶようになり、空き地にはだれも近づかなくなってしまいました。
ある日、用事で空き地の近くまで足を運んでいた私は、ふと気になって空き地の様子を見に行くことにしました。相変わらず、1輪の彼岸花以外は植物の姿はなく、鳥や野良猫の姿すらありませんでした。あまりの不気味さに私も怖くなり、急いでそこから離れることにしました。その時です。
強い風が吹いて目にごみが入ったのでこすってみると、彼岸花のところにだれかが立っている姿が見えました。それは、その彼岸花を植えた、亡くなった友人の姿のようにも見えました。
次の瞬間、彼の姿は消えていましたが、まるであの彼岸花にとり憑いているかのようにも見えました。そして、彼の周りには白いモヤが彼に吸い寄せられているように見えました。まるで、彼が何かを吸い取っているかのように。
私はその時、彼岸花にとり憑いた彼が、周囲の植物などから命を吸い取っているのではないかと思うようになりました。以来、怖くてその空き地には近づくことすらできなくなりました。