これは大学の先輩、辺名古さん(仮名)が体験した実話。
その先輩は沖縄の人で、東京の大学受験のため上京した時のこと。特に東京近郊に知り合いもいなかったので、先輩は都内のホテルに一人で宿泊することにした。何校か受験するため2週間くらいの長期滞在だ。
そんな中のある日、試験を終えて試験会場からホテルに戻ると、フロントの人に呼び止められた。
「辺名古さまでらっしゃいますよね」
「はい。そうですが……」
「実は辺名古さま宛に、他のお客様よりお預かりものがあります」
「えっ? 誰ですか、それ?」
「さあ……他の従業員が対応しましたのでわかりかねますが……」
先輩は状況が理解できなかった。
なぜなら、実家の親以外に彼がこのホテルに宿泊していることは誰も知らないはずなのだから。
「人違いではないですか?」
「いいえ。お客様は辺名古さまですよね?でしたら間違いございません。確かに辺名古さま宛にお預かりしたものでございます」
「他の辺名古という名前の人ではないでしょうか?」
「いえ、当ホテルでは現在辺名古さまという名前のお客様はあなた様だけですので」
先輩はわけがわからなかったが、とりあえず自分宛だという謎の預かり物である、B5サイズの茶封筒を受け取った。
部屋に戻って、先輩は中身を開ける前にとりあえず実家に電話してみる。しかし、当然実家の親はそんなもの知らないと言う。やっぱり人違いでは……先輩はもう一度フロントに言いに行こうとしたが、思いとどまった。先輩の名字は大変珍しい名前であり、その名前で確かに届いていたのだから、他の誰かと間違うはずもない。
ついに恐る恐るその封筒を開いてみる。すると中からは一枚のレポート用紙が出てきた。そこには、サインペンで手書きの地図のようなものが描かれていた。現在いるホテルから3つ先の駅から道が伸びており、簡略に描かれた道を順にたどって行くと、ある道の傍らに斜線で記された場所がある。
そこに矢印がしてあって、その横に「ココ」と小さく書いてある。封筒をもう一度のぞくと、中には何やら家の鍵らしきものが一緒に同封されている。先輩はもう完全にわけがわからない。同時にものすごく恐くなり、その封筒に中身を戻すと無理矢理フロントに押し返した。
もちろん、その地図の場所に行ってみようなんて気にはとてもなれない。幸いにも受験校は翌々日の1校を残すのみであったが、そのことが頭から離れず、試験にまったく集中できなかったそうだ。
先輩はその試験を終えると、当初は受験を全て終えた後の骨休めとして東京見物をするためもう何泊かする予定であったが、それらをキャンセルして逃げるように沖縄に帰った。
実話だけにこれ以上のオチはありません。でも先輩は、いまだにそのことはまったくの謎であり、思い出しただけでも恐くなると言っています。