廃ビルの地下室で

7~8年前の夏休み、友人の家業の手伝いをしたことがあった。電話やPCの配線メンテの助手で、車で現地に行って指示通りに動くだけの簡単な仕事だった。




朝、到着するなりいきなり神社に連れて行かれ、お祓いみたいなのを受けた。そのあと向かった現場は、街はずれにある人気のない数階建てのビルだった。入口のロビーでビルの持主らしき人と霊能者?っぽい人が待っていた。

依頼は地下にある配線の点検で、助手のいる作業ではないため、俺はロビーで待機することになった。社員と霊能者っぽい人が地下へ向かった。その後2時間ぐらいで仕事は終了、そのまま簡単な挨拶をして帰ってきた。

その日から俺は体調を崩し、発熱と嘔吐の日々が続いた。一週間後に会社に行ったら社長(友人の父)があやまりつつ事情を話してくれた。そのビルは以前から、行くとなぜか体調が悪くなる場所なんだそうだ。ビルの持主も貸しては返されの繰り返しでどうにも困っているらしい。そんなわけで、無人のままでほぼ放置し、最低限のメンテだけを数ヶ月に一度しているという状態だった。お祓いも気休め程度で効かず、一緒に行った社員さんも通院してるってことだった。

体調も戻りまた仕事を続けていると、同行した社員も復帰してきた。早速何があったのか聞いてみると、絶対他言無用だと言って話をしてくれた。あの日、地下に降りていく途中の踊り場みたいな所で案内人の霊能者みたいな人にこう言われたそうだ。「私は何の能力も持っていません、ただどこに何があるかを知っているだけ。そして、知っているからこそ驚かないで対応できるだけです・・・。危険はないけど驚かれると思います。頑張ってくださいね」

社員は心底怯えたそうだけど、仕事なので腹をくくったそうだ。そして二人で点検場所に降りていった。廊下はすぐ終わり、一つだけあったドアを開けると、そこはごく普通の部屋だった。事務所みたいな感じで、雑多にイス、机、棚があるくらいのものだ。地下なので窓がない以外は拍子抜けするぐらい普通だったそうだ。

「あそこが配電盤です。あそこまで先に行くけど驚かないでください」
そういって先に部屋の角に向かって案内の人が歩き出した。机やイスを無視、CGのようにすり抜けて?歩いていったそうだ。驚き、何も言えない社員さんに案内人は「近づいてみれば解りますよ。勇気を出して」 と言ったそうだ。

混乱して気が動転したが、言われたまま数歩近づいてみた。すると、机やイスが半透明になったそうだ。更に近づくと見えなくなった。見えないのでぶつかるも何もない。普通に歩いて案内人の所に近づいていった。「そう、距離を置けば見えるけど、何故かここの備品は近づくと(見え)ないんですよね。この部屋の真ん中にある机とイスは異次元の物なんですかね・・・。見えるのに触れられないんですよ」

二時間近く仕事をしていたが他には何も起きず、気が動転したまま点検を終え、仕事を終えたそうだ。「このあとあなたとあのバイトの子は体調がおかしくなると思います。私もそうなるでしょう・・・それも原因は不明です。何故か持ち主のあの人は平気みたいなんですけどね」
そう言われて、部屋を後にした。結局よく解らずオチもないが、いまだに不思議だ。この話が本当なのかどうかもわからない。

ちなみに今現在、まだその場所にそのビルはある。何も様子は変わらず、どこかの会社が入った様子もない。廃墟っぽくなってないので持ち主の人が欠かさず手入れしてるのだろう。できればあの地下室に入って、この目で確かめてみたいものだ。

メールアドレスが公開されることはありません。