廃屋の屋根にいたもの

今年の夏の体験。




私の家は山の上の方にある。夜、喉がかわいたので飲み物を買うため、500メートルほど坂を下ったコンビニ行くため自転車にのった。私の家からコンビニまでの坂の片側は、崖になっていて、崖の下には道路よりに樹がはえていてその向こうに住宅などが建っている。

坂を下る自転車から見下ろすと、後ろに吹き飛んでいく木々の黒い梢の頂きのむこうに、住宅の屋根がコマ送りのように流れていくのがみえる。その夜は晴れていて満月に近かったので月明かりで景色がよく見えた。さてこの一段低くなった土地にたつ住宅地の中に一件の空き家があった。誰も住んでいないので、雨戸はいつも締めたままになっていた。

なぜか解らないが、ふとその家に視線を降ろした。すると屋根の上に奇妙な物をみつけた。それは白いネグリジェをきた若い女性ようだった。彼女は二階のやねに膝を抱えて夜空をながめているようだった。だったというのは、梢の黒い陰の間からちらりと見えたにすぎないからだ。

そのあと樹が密生している所にさしかかったので、しばらく女の座った屋根は見えなくなった。梢の陰で屋根がみえなくなったあと、私は先ほど屋根の上の女の不自然さに気が付いた。

こんな夜中に、廃屋の二階の屋根の上に若い女がいるなんてありえないことだからだ。だから私はなにかを見間違えたのだろうとおもった。そう納得した時に、道路脇の樹木がとぎれてしばらく視界がひらけるところにきた。私は女の座っていた屋根のある建物をみないようにしていたが、好奇心にまけてちらりとみた。

すると、いた。あの屋根の上に白いネグリジェをきた若い女がやはりいた。そしておそろしいことに私の方を見ているのである。女の目は真っ黒で穴があいたような感じだった。女の洞窟のような目で見つめられると、金縛りにあったようになった。

目をそらそうとしてもそらせない。私は坂道を下るスピードに自転車をまかせていた。そのうちその女が私ににこりと微笑んだ。微笑んだ様なきがした。

気がしたのは先ほどと同じく、自転車が再び道路脇に木が茂っている所にさしかかったからだ。ようやく金縛りから身体が開放されて、気が付いたのは冷や汗でびっしょりになっている自分自身だった。

すると再び樹がまばらになっている所にさしかかった。見えなくなったのはほんの数秒だった。今度坂のしたに目をやったときには、もう屋根の上にはだれもいなかった。

あの屋根のうえにいたのが生身の人間ならあの短い間に姿を隠そうとおもったら、屋根から飛び降りるしかない。結局あれはなんだったのだろう。大阪の南部でのできごと。

メールアドレスが公開されることはありません。