【神の使い】北海道の山の前身真っ白なエゾシカ

冬の北海道。旭川北方の名寄から音威子府付近の山中で、全身真っ白な雄エゾ鹿を見たという目撃談をよく耳にする。角は太く、普通と違って捻れるように生えている。その角だけが雪面に黒く目立つからハンターの注意を引くのだそうだ。推定体重200前後。惚れ惚れするほど美しい姿だという。

30年近く前から噂されているが、同一の個体とは思えない。寿命的にも難しい。また、距離的に移動が困難なはずの場所で其々近い日時に目撃されている。縄張りを円を描くように移動する鹿の習性からみても、違う個体がいるのではないか、と考えられている。

私がこの話を聞いたのは、師匠であるK氏からだった。名寄の東、サンル川沿いで渉猟中に山の稜線にじっと立つその姿を見たのだそうだ。距離150メートル。蒼い空をバックにしたその姿は余りにも別次元の姿で、ただ見つめるばかりで撃つ気にもならなかったと遠い目つき
で語ってくれた。

地元のハンターの多くは、見ても撃たないという。神の使いだと言う人もいれば、ただ撃つ気に
なれぬと言う人もいるそうだ。密やかな噂として、その白いエゾ鹿を獲った者にはタタリが
ある、と言う話も聞いた。本当かどうかは知らぬ。本州から訪れたハンターには追い掛け回
すものもいるらしい。ただし、捕獲したと言う噂は一切聞かない。噂が本当なら、その後報告
も自慢話も出来ないのかもしれない。実は、不慣れな北海道の山中で行方を立つハンター
が毎年何人かいると話には聞く(北見警察関係者)。

K氏の命日がまもなくやってくる。氏は北海道の別宅で死ねて幸せだったのだろう。
私も何度か北海道を渉猟し、大古の原生林を覗き見て神の存在を感じたりもした。しかし
まだ角以外全身真っ白な、ひねくれた変形角のエゾ鹿に逢えてはいない。
でも、いつか逢えると信じている。そのとき引き金を引くかどうか。考えていない。

北海道で聞く話を書いて見た。怖くも不思議でもないけど、今年も聞けた話。
一度でいい。見て見たい。

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