【山の怖い話】ぼそぼそ人語を話す人面昆虫

おととしの五月頃、俺が父方の叔父の家へ行った時に起きた話。

母親に頼まれて蕨(わらび)を取りに山道を歩いていると、誰かがぼそぼそと話す声が聞こえてくる。しかし、声の方を見ても其処には崖があるだけで誰の姿もない。声の正体がわからず首を傾げて歩き出すと、再び聞こえ始める誰かの話し声。声の方へ何度か視線を巡らせて、俺はようやくそれに気付いた。

何時の間にか俺の肩に止まる一匹のバッタ。しかしそれはただのバッタではなかった。……何せそのバッタは人の顔をしていたから。

ヘンな物を見た驚きの余り、硬直する俺の様子に気付いたのか人面バッタは「みつかった、みつかった」といいながら俺の肩からピョンと飛び降りた。無論、俺は我に帰るや即座にバッタの飛んで行った方を探したが、バッタは見つかる筈もなかった。

叔父の家に帰った後で、叔父へその話を話すと叔父は俺の話を疑う事もなく、「山には昔からそう言う”モノ”が多い」と一言返しただけだった。

メールアドレスが公開されることはありません。