十年以上も昔のことだそうだ。
消防団員の彼は、行方不明者の捜索で秋口の山に入っていた。
四人一組で捜していたのだが、彼のチームが遺体を発見した。
発見したことを伝えるのと、担架の手配をするため、二人が麓の指揮所に戻った。
彼は残りの一人と一緒に、遺体の傍で番をする方に回った。
日が暮れて暗くなってきた時、目前の林から人に似た何かが姿を現した。
大きな身体に粗末な衣類をまとい、大きく開いた口元からは歯が覗いていた。
その肌は、頭の天辺から足の先まで真っ黒だった。
それは彼らを見つめると、「その死体を譲ってくれないか」と尋ねた。
「駄目だ」と答えると、二人を見つめて何かしら考えているようだった。
思わず二人とも、護身用に持っていた鎌を握りしめたという。
それはしばらく考えて諦めたのか、「残念だなあ」と言って山に戻っていった。
立っていた場所には、よだれが大量にこぼれて光っていたそうだ。
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死体を食べる妖怪は火車や山姥が有名だけどこいつは何だろうね。