【悪戯好きな山の妖怪】何かがついてきても絶対に振り向いてはいけない

うちの会社の部長、若い頃『林業』やってたんだって。正直『林業』なるものよく分からないんだけど、山で木材を調達するって感じかな?で、部長が若い頃だから昭和40年代らしいが、山の中の作業で使い走りみたいな仕事をしていたらしいんだけど、徒歩で山越えた作業場から2、3時間掛けて山の入り口に有る詰め所(現場監督とか、正社員が居る事務所)まで往復する事になったんだって。その時に木こりみたいなオッサン達にさんざん脅かされたって言う怪談を聞いた。

新人のアンちゃん子(鬼太郎のチャンチャンコの駄洒落らしい)が山から下りて詰め所まで行く事になった。親方がそいつに「もしかすると山の悪戯好きな妖怪が後を付けて来るかも知れないぞ」って言った。ビビッたアンちゃん子は「勘弁して下さい」と泣きを入れた。始めは面白がってアレコレ怖い話をかましてた木こり達も、腰が抜けてしまった新人君を送り出す為に最後は励ます事になった。木こりのオッサンも自分が代わりに行くのはイヤだったんだろう。「妖怪が後を付けてきても決して後ろを見るな。最後まで後ろを見なければお前の勝ちだ。あいつ等も諦めるから、な。」何とか出発した新人君、すっかりビビりながら歩いていた。(ああ~妖怪来ないでくれ~)って必死にお願いしながらね。しばらくして気が付いてしまったんだが、誰か後ろをついて来てる感じがし始めた。首に力を込めて(絶対に後ろは見ないぞ!)って念じながら歩いてると、その内気配が自分の横に迫ってくる。右へ廻って来たので、ちょい首を左に向けていると今度は左の方へ来る。(うわ~見せようとしてるんだ・・・)新人君はそれでも前方にしっかり首の力を込めて両脇と後方は視界に入らない様に頑張っていた。

頑張っているんだけど、人間そう前方だけに視界を限定出切るもんじゃない。その内に横に廻った気配が見えそうになるんだけど、その度に右、左、と少しずつ首を動かして辛うじて視界に入れるのを防いでいた。そうすると新人君の耳元で“かちっ”とか“かぽっ”という小さな音が聞こえる。何なんだろう?って思っていた新人君だったが、ある瞬間にフッと気が付いてしまったんだ。自分の顔の横に来た時、口を開けていたそいつはオレが反対を向いた時に口を閉じているんじゃないか?“かちっ”って音はヤツの歯の音じゃないか!そう考えると、顔の横にそいつの生暖かい息まで感じる様になったらしい。遂に限界に来てしまった新人君は目を閉じて駆け出してしまった。するとそいつの気配は後ろの方に置いていかれた様だった。(やった!)とばかりに駆け出した新人君はギュッと目をつぶったまま走っていたんだけどバーンと物凄い衝撃を顔に受けて目を開いた。(おおっ?)と気が付くと目の前に看板が立っている。そこには真っ赤なペンキでぶっとい矢印が『 ↑ 』と書かれていた。思わず上を見上げた新人君。真後ろに立った大木の枝が自分の上を覆っている。その枝の更に上から葉っぱを掻き分ける様にして覗き込んでいる真っ白な顔の女が大きな赤い口をパッカパッカ開けたり閉じたりしていたそうだ。“かちっ” “かぽっ” って音がしっかり聞こえたって。

まあ、子供相手の古典的な怪談なんだけど、部長の一言が嫌なんだよなぁ。『結構恐がるわりに、人って怪談好きだろ?皆馬鹿にして聞いてるんだけどなんかの拍子に昔聞いた怪談をフッと思い出す時が有るんだよな。そういう時って瞬く間に思い出すからさ、お前らも酔っ払って深夜に帰る時に思い出すかもしれないぞ』

オレ、いつも団地を抜けて帰るんだけど、深夜バスが着いて団地を抜けてる時に後ろを振り返るのがたまらなくイヤになる時がある。部長の話を思い出して、更に話が膨らんできてね。3階建ての団地の屋上から真っ白な顔の女がオレを見下ろしてたらどうしようか?って妄想が。いや~聞かなきゃ良かったですよ。部長。

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