2年ほど購読していた新聞の購読をやめることにした。すると毎日ひっきりなしに新聞の勧誘が来るようになった。一度断ると同じ人は来ないが別の人がまた来るようになる。まぁそのうち来なくなるだろうと思っていたが一人のおじさんだけは毎日のように来る。そのおじさんは身長が140cmほどしかなくボサボサ頭でかなり汚い身なりをしている。
滑舌が悪く、合間に「んっんっ」という独特の妙な癖が入る。
正直言って不気味で会いたくないから居留守を使うが、絶対に出るまで何度も呼び鈴を鳴らし、帰ってくれない。
「ちょっといいかげんにしてくれよ。もう何度も断ってるだろ。」
「あ・・んっんっ・・Yしんぶんでしゅけど・・んっんっ・・こおどくのけいやくを・・」
「いや、だからいらないよ。本当に迷惑だからもう来ないで。」
それでも翌日また来る。かなり参った。
毎日聞いているうちに幻聴でもないが、あの「んっんっ」というのが耳に残って一人でいる時にどこからか聞こえてくる感じがする。
ある日、顔見知りのY新聞の集金のおじさんに会ったので相談してみた。
「毎日来るんですよ。どうにかなりませんか?」
「いや~俺に言われても無理だね~。でも変だね、どんな人?」
「小さいおじさんで滑舌が悪くて
「んっんっ」て言う癖のある人なんですけど。」
「え!!・・・出た?・・・出たか~。」
出た?来たじゃなくて出た?どういう意味だろう。
「出たってどういうことですか?」
「いや~・・・そのおじさんね・・・おばけだよ。」
「はい???え???おばけ???」
「俺この仕事20年やってるんだけど、入った当時から出るって聞いてたよ。小さくって「んっんっ」て言ってたんでしょ?間違い無いと思うよ。俺達は妖怪んっんって呼んでるけど。」
「おばけには見えなかったけど・・・どうしたら良いンスかね?」
「ちょっとわかんないな~、俺は見たこと無いし、出たって話は聞くけど最終的にどうなったかは聞いたこと無いし・・・まぁ最悪の場合、引越しを考えたほうがいいんじゃない?」
おばけ・・・あのおじさんがおばけ・・・。
ちょっとにわかには信じがたいけど、そう言われると余計会いたくなくなる。
その日の夜もあのおじさんはやってきた。絶対に会いたくないから居留守を決め込んでいたが、やはりしつこい。
ピンポーン・・・ピンポーン・・・ピンポーン・・・
一定のリズムで呼び鈴を鳴らす。1時間ほどしてようやく帰っていった。だが深夜にまた呼び鈴がなった。あのおじさんだ。
ピンポーン・・・ピンポーン・・・ピンポーン・・・
また1時間ほどして帰っていった。本格的に参った。あのおじさんがおばけかどうかはまだわからないがとにかく普通じゃないのは確かだ。おばけをどうにか出来る知り合いはいないし、本当に引越しを考えなければならない。翌日は夜の訪問をやり過ごしたあとにヘッドフォンをして寝ることにした。
深夜、トイレにいくため寝ぼけ眼でヘッドフォンを外すとあの音が聞こえた。
「んっんっ・・・・・んっんっ・・・・・。」
ああ、やっぱり耳に残ってるなと思いながらベッドから起き上がると、薄暗い部屋の中に小さな人影が見えた。まさかと思って明かりをつけるとあのおじさんがベッドのすぐ側に立っている。
「んっんっ・・・あ・・・Yしんぶんでしゅけど・・・んっんっ・・・こおどくのけいやくを・・・。」
驚いたがなぜか恐怖よりも怒りのほうが大きかった。
「てめぇふざけんなよ!!なに勝手に人の家入ってきてんだよ!!マジでいいかげんにしろよ!!」
とにかくブチギレた。するとおじさんは申し訳なさそうに謝ってきた。
「し、しぃましぇん・・・しぃましぇん・・・んっんっ・・・。」
そう言って頭を下げながらふっと消えた。本当におばけだった。でも何だろうこのおばけ・・・何をどうすればいいんだろう。翌日、やはり変わりなくおじさんはやってきた。
「んっんっ・・・Yしんぶんでしゅけど・・・んっんっ・・・こおどくのけいやくを・・・。」
契約してみるか・・・。そうすればもう来なくなるかもしれない。でもおばけと新聞の契約して大丈夫だろうか?更に怖いことになりそうな気もする。
「・・・わかりました。契約します。」
おじさんはめちゃくちゃ嬉しそうだ。
「あ、あ、ありがごじゃす・・・んっんっ・・・ありがごじゃす・・・んっんっ・・・。」
契約書に判子をおそうとしたが契約書がない。
「う・・・う・・・んっんっ・・・しぃましぇん・・つぎもってきましゅ・・・んっんっ・・・しぃましぇん。」
そう言っておじさんは帰っていった。翌日からおじさんは来なくなった。契約をしてくれるというだけで満足したのかもしれない。それからすぐ引っ越したので結局そのおじさんが何者だったのかはわからない。契約していたらどうなっていたんだろう・・・考えると少し怖い。