杣人のKさんから聞いた話。山での仕事を終え、仲間と道端で一服していると上方の斜面を知人のEさんが下っているのが見えた。奇妙なことに、和装の女性がぴったりと後ろに寄り添っている。Eさんは、ヒョコヒョコと妙な歩き方で、杣道も通らずに斜面を真っすぐ突っ切ってくると急勾配の法面を転がり落ち、最後は道路にどさりと横たわった。女性のほうはというと、木立が途切れたあたりで立ち止まりKさんと仲間がEさんの方へ駆け寄るのを見届けると、ヒラリヒラリと山の奥へ斜面を登って消えた。
「おい！大丈夫か！」
Kさんが声を掛けたが、Eさんは気を失っており返事もしない。とりあえず車に乗せ、そのまま病院へ担ぎ込んだ。
診断の結果、Eさんは足を骨折していたことが分かった。玉切りしている最中に転がった大木に足を挟まれてしまい、激痛で動くこともできず、その場で気を失ってしまったらしい。その後の記憶は全くない、ということなのでEさんは意識が無いまま、斜面を数百メートル下ってきたことになる。また、診断した医者によると、Eさんの足は「平地ですら歩くのは困難」な状態だったらしい。
「山の神さんが俺を助けてくれたんだろうな…」
Eさんは、病院のベッドで不自由な足をさすりつつ山の方向に向かって無言で頭を下げた。
※そまびと【杣人】
木を植え付け育て、材木をとる山から木を切ることを職業とする人。きこり。杣夫そまふ。そまうど。