以前実家が引っ越した先で親が飼ってた犬は、日本原産の血が濃い犬種だそうで、結構肝が座ってて滅多に吼えないし、自分より小さい犬に噛まれても怒らないし、尻尾を巻くことも無いし、車に尻尾を足を轢かれてもキャインと鳴きもしない豪胆な奴だった。言う事もよく聞く犬で、帰省した時には俺が散歩させたりもしていたんだが、ある日いつもとは違う散歩コースにしてみようと思い立った。その方向へ行くために交差点で信号待ちしていると、犬が逆方向に戻ろうと引っ張った。「おい、何勝手に行こうとしてんだ。」と、信号が青になると同時に紐を引っ張った。すると仕方なく付いて来たので、そのまましばらく進むと、突然犬の足が止まった。硬直して前方をじっと見詰めている。「おい、行くぞ。」と紐を引っ張ると、小走りし始めた。帰りは通りを反対側に渡って戻ったが、その際はなんとも無かった。後日、また同じコースを行こうとすると、再び犬が交差点の横断歩道手前で止まった。腰を落とし足を踏ん張り、進みたくないと意思表示していた。だが俺は「何だよ~この前も通ったろ?」と、犬を引きずって横断歩道を渡った。渡り終えると犬も諦めたようで、しぶしぶ歩き出した。しかし前回犬が硬直して前を見ていた地点に来ると、突然踵をかえし、逆方向に猛ダッシュした。中型犬なのに、引っ張って止める事も出来ない程、必死で走る犬。仕方無く、元来た道を戻って行った。
その次の散歩の時は、交差点の横断歩道手前で犬は逆方向に猛ダッシュ。仕方なく、その時は別の散歩ルートを通った。帰宅して母に一連の事を話し、「何だろうな?デカイ犬が居たとかでも無いのに。第一、こいつに怖いもんなんて無いだろ。」と言うと、母が意外な事を口にした。何でも、犬が立ち止まった場所は、昔から変な現象が頻発している場所だそうで、霊能者が御祓いに来たが、「これは、人霊が強い念と時間のために人霊では無いもの、化け物になっている。私の力では祓えない。多分これを祓える人はいないだろう。」と言ったらしい。実家がここに引っ越したのは、俺が進学で実家を出てからの事だったので、あの場所にそんないわくがあるなんて全然知らなかったよ。豪胆な犬が怯えて逃げ出すような化け物・・・犬は一体何を見たんだろう。霊とかはそんなに信じてない俺だけど、この場所だけは何かあると思っている。