【霊能力】祖父にだけ見えていたもの

私の祖父は浄土宗の寺院の住職をしていたのですが、もう13年も前に亡くなりました。寡黙な人で早朝と夕方の読経以外は声を聞く事はありませんでした。




お坊さんだから、幼かった私は「おじいちゃん、幽霊見たことあるの?」とよく聞きました。すると祖父は決まって「見たことないなー」
と答えました。お坊さんのくせに幽霊も見えないなんてつまんないの、と幼心に思っていました。

と言うのも、小学3年生くらいまで祖父の寺院に暮らしていましたが、家族の誰もが霊を見たことがなかったのです。見たいというわけではありませんが、そういった環境なのに全然ないのもつまらないものです。悪いことをしたらよく納骨堂に閉じ込められましたが、そんなことができるのも寺院に霊の存在がなかったからでしょう。

そんなある日のことです。夏の風物詩ということで、夜遅くまで家族全員で起きて、テレビの心霊特番を見ていました。番組は、心霊スポットに霊能者を連れてグラビアアイドルと共に侵入するというお決まりのものでした。きゃあきゃあ騒ぐだけで特に霊障は起こらないので、家族は半ばあきれていました。祖父は夕食を食べたらいつも部屋で読書にふけるので居間にはいませんでしたが、その日は急に部屋から出てきてテレビの真ん前に座りました。

みんなで「おじいちゃん見えないよ、邪魔」と言ってからかいましたが、祖父はテレビに食いついたまま離れません。いつもとは違う祖父の妙な雰囲気にだんだん不安になり、家族は皆静かになりました。すると祖父が言いました。

「ここに女の子がいる」

「えっ!?」とみんなで言いました。
「ここにいるぞ、女の子が」と祖父は繰り返します。しまいには、「赤い服を着ている」とまで言うのです。これは普段みんなで祖父をないがしろにしているから、復讐の意を込めて逆にからかっているのだと思いました。
「またまたー、おじいちゃんたらー」と空気がほころび始めました。

しかし次の一言で夜の一家団欒は凍り付きました。それは番組の中で、スタジオでコメントしていた霊能者の言葉でした。
「ちょっと、映像を巻き戻してください。ここに女の子の霊がいます」
あの時の空気は忘れられません。どちらかというといつも陽気な家族が、全員青い顔をしました。「ぞっ」という冷たい空気が目に見えるようでした。そこで陽気な伯父さんが「偶然だよ偶然」などと茶化し始めると、またテレビの中の霊能者は言いました。

「赤い服を着ています」

すると家族の気持ちは完全に切り替わり、祖父は一躍ヒーローのような感じになりました。

「おじいちゃんすごい!」

私は「やっぱりおじいちゃん幽霊が見えたんだ」と胸がいっぱいになり、祖父を尊敬するようになりました。その後、祖父に幽霊について猛烈にインタビューしたのですが、無惨にも「見たことないなー」の一点張りでした。そしてあれはやっぱり偶然だったんだと、すぐに祖父への尊敬の念は消え去りました。

しかし今思うと、仏に生きる者にとって、幽霊がどうのこうのというのは煩悩の一つでしかなかったのでしょう。今でこそ、祖父には色々聞きたい事があります。実はいろいろなものが見えていたのではないかと、私は思っています。

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