とある小高い山の斜面にうちの先祖が眠る墓場がある。麓から少し車で登ったところに猫の額ほどの駐車場があってそこからさらに急斜面にある50段ばかりの石階段を登った先の、ちょっとした平地に墓石が並んでいる。まぁこじんまりした墓場だ。だがその石階段が曲者で、墓参りに来る度に息があがって仕方ない。ある夏の御盆に墓参りに来た。とみに暑い日だったので階段の途中でバテてしまい、座り込んで一息ついていた。吹き出す汗と照り付ける陽光に堪らず顔を伏せ、タオルを頭にかけてフゥフゥやっていると下の方からハァハァフゥフゥいいながら石段を登ってくる音がした。ああ俺と同じくご苦労なこったなぁと思い、妙な親近感から一声かけてやろうと顔をあげると、誰もいない。ただ荒い息遣いと、意外としっかりした足音だけが、座り込んでいる俺の横を通り過ぎていった。しばらくぽかーんとしていたが、恐ろしいというような気持ちは不思議と起こらず呼吸も整ってきたので残りの石段を登り終え、さっさと墓参りを済ませた。不思議な事もあるもんだなぁと思った真夏の出来事でした。