誰に言っても信じてもらえなかった話。時代は初代ゲームボーイが出た頃。俺は親に買ってもらったばかりで浮かれていて、習い事の行き帰りに電車の中でよくピコピコ遊んでいた。クラスの中では持っている奴も結構居たが、俺はこれ見よがしに電車の中で自慢気にやってたもんさ。
そんなある日…電車に座って小さいゲーム機みたいなもので遊んでいる少年が居た。当時、そんな小さい携帯ゲーム機と言えば、一種類のゲームしかできないゲームウォッチくらいしかなかった。俺は『プッ、時代遅れめ』と思い、ゲームボーイを自慢するために近付いた。しかし、その少年が遊んでいたのは、そんなものではなかった。本体は小さく薄っぺらいのに、色鮮やかで動きも俊敏で、ゲームもこれまで見たことがない程面白そうだった。
「え…すげー!何それ!!」
べらぼうに驚いた俺は、見知らぬ少年に叫んでいた。
「まあ、ゲーム自体は昔のだよ。この機械はあいほんっていうんだよ」
彼は言った。
「ゲームだけじゃないよ。カメラにもなるし、ビデオもとれるし、メールもできる」
「メールって何!?」
「そうか、まだこの時代じゃメールもネットもないんだよね」
彼はそのゲーム機を触らせてくれたが、使い方がよく解らなかった。
「じゃあ、もういかなっくちゃ」
そう言うと、彼は次の駅で降りた。電車が出発し、彼の姿を窓から確認しようとしたが、既に彼は居なかった。
家に帰った俺は、親にそのゲーム機をねだったのだが、「そんなものはない」と一蹴されてしまった。友達に言っても「そんなのあるわけない」と言われる始末。数年後にクロノトリガーが発売されたのだが、俺は驚いた。それは彼が iPhoneで遊んでいたゲームだったんだ。「俺、ずっと前にこれ見たことある」と周囲の連中に言ったが、当然嘘吐き呼ばわりされたさ。彼は一体誰だったのだろうか。俺が見たものは一体何だったのだろうか。彼が未来から来たとは思えないし…今となっては謎だらけだ。