【猫の集会】飼い猫に家を買わされた話

猫が人間を操って自分の意思を代弁させるなんてことが果たしてあるのだろうか。うちには猫が五匹いる。ある日、ふと誰かがどこかで囁きあうような気配がして夜中に目が覚めると、猫たちが縁側に横一列に並んで座っていた。夜中に集会でもやっているのか、とか思ったが、窓の外を眺めているようにも見えた。何かあるのかと思ったが、カーテンがあるので外は見えないはず。気になってしばらく様子を見ていたらなぜかはわからないが、猫たちはカーテン越しに誰かと会話をしているような気配を感じた。

『何とかなりませんか…』
『うちだけの力ではどうにも…』
『そこをなんとか』
『そちらからも働きかけてみてください…』
確かそんな感じの会話だったように思う。

「お前ら何の話をしてるんだ?」
そう思って立ち上がった瞬間、気配を感じたのか猫たちはいっせいに窓の付近から散っていった。朝起きるといつもと同じ普通の猫だったので、あれは夢だったのだとその時は思ったのだった。それからしばらくして、近所に中古の物件が売りに出されていたので連れと見に行ったのだ。

築30年といいながらも古臭さはなく、日当たりも広さも申し分なく自分も連れもいっぺんで気に入ったが、どうも家を買うというのが決心がつかずに見学だけで帰った。思えば今住んでいる家は借家で築年数も長く、とにかく寒く湿気が多い。押入れにいれた物があっという間にカビだらけになるような家だった。そろそろ引っ越す時期なのかとは思っていたが、お金の問題などを考えると今一歩足が出なかった。猫が新しい環境になじめるのかどうかも心配だった。思わず我が家のリーダー格の猫を膝に抱っこしながら「今度新しい家を買おうかと思うが、お前らどう思う。」とひとり言を言ってみた。「まあ、うちにはそんな金はねーから、無理だがな。」と続けたら、猫は膝からぴょんと飛び降り、ちらりとこちらを見た。猫に愚痴るなんてバカな真似をしたな思ったが、家のことは結局結論が出ずに数か月が過ぎた。

すると例の物件が値下げになっていた。これはチャンスか!と思ったが、この期に及んでもなお、決心がつかなかった。そんなある夜、隣ででかい寝息を立てていた連れが不意にしゃべった。
『イマ…』
『イマナラ…』
少し驚いて、「おい、なんだ寝てたかと思ったぞ?」と話しかけたが、ただの寝言だったようだ。だが、その一言がなぜか心に引っかかって、その意味が気になっていた。
「イマナラって何が今なんだろう?」
連れに聞いてみたが、案の定覚えていなかった。それと寝言がいつも聞きなれた連れの声とは違ったのも気になっていた。

そんなことを考えていたら、足が無意識にお目当ての家に向かっていた。すると背広の男性が家の前で写真を撮っているのを見かけた。すごい胸騒ぎがして、すぐに不動産に問い合わせたら、別の購入希望者が内覧を申し込みきているという。本当に買う気があるのなら、うちが一番最初に問い合わせに来たから今なら優先しますよ。ということだった。そこからはもう大あわててで売買契約を申し込んだ。一度腹を決めたら後はとんとん拍子で話は進んだ。心配していた銀行のローンも割とすんなり審査がおりた。しかも結構良い条件だった。引越した後、猫たちは予想以上に早く新居に馴染んだ。日当たりの良いリビングで並んで腹を晒して昼寝をしたり、家じゅうを駆け回って追いかけっこしたり、それなりに満喫しているようだ。ここは正に猫を飼うために造られたような家だなと思う。毎日買ってよかったと二人で言い合っている。

それにしても、あの連れの寝言は一体なんだっただろうか。ここからは完全に妄想なので、んなアホなと聞き流して構わないのだが、恐らくあの寝言は猫が連れの声を借りてしゃべらせたのではないだろうか?実は以前、猫白血病で亡くなった猫がいた。まだ引越す前で年末の寒い時期だった。あの時もっと暖かい環境ならせめて、もう少し安楽に逝けたのではないか。あと向かいにすごい猫嫌いな家族がいたので、引っ越しを望んでいたのは猫達も同じだったのではないだろうか。それで猫なりに努力して、踏ん切りのつかない私の後押しをしてくれたのではないか?長々と連投しましたが、この家は猫が福を招いて買うことができたのだ思っております。

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