「死人の生き返り」を見た祖母の話

今年99歳を迎える大正生まれの婆様から聞いた、昭和初期の田舎での話。うちの婆様は終末期のガン。大腸がんからの再発で、現在肝臓をがん細胞に食い荒らされてボロボロの状態だ。足は浮腫(むくみ)が出ており、私は日々婆様の足をマッサージして不快さを緩和している。最近マッサージしていると婆様がちょくちょく尋ねてくることがある。
「私の脚は冷たいか?」と。
実際のところ婆様の脚は冷たくなりやすい傾向にあり、足を毛布で包むなりして暖かさを保っている。
「いいや、暖かいもんだよ」
そういうと婆様は、「そうか・・」と安堵のため息を漏らす。

なぜそのような事を聞くのかと尋ねると「私が子供の頃は、脚のムクミと冷たさで病人の死期を探っていた。 死期が近い病人へ誰かが見舞いに来た時も、必ず脚を触って確かめていたものだ。そして『もうそろそろみたいだな』と村内で噂してまわったものだよ」
「お婆ちゃんは今のところは大丈夫みたいだよ」
私は婆様と話すときは、嘘と本当の狭間で色々と悩まされる。
「昔は今と違って医学は発達してなかったからね、死人が生き返るなんてこともあったんだよ」
婆様のとんでもない言葉に変な息を吸ってしまった。

「ちょくちょく通夜で死人が生き返ったんだよ」
大日本帝国版ゾンビ!? グレートジャパン・オブ・ザ・デッド!?話を聞いてみると、死んだと思ってた病人が実は生きてたり、酷い時には、弱って意識が無くなった病人を、どうせすぐ死ぬからと葬式をあげたケースがあったようだ。もちろん東京や大阪のような都会ではなく、とあるど田舎の話。
「まったくだよ、でもそんないい加減さも時が経つとともに無くなっていったけどね」
婆様の話は続く。

「昔は今と違って桶の中に死人を入れて土葬にしたんだけど、やはりここでも死人が生き返ることがあってね。死んだらその後に身体が固くなるから、本当に死んだかわかりそうなもんだけど、死人が生き返るような家ってのはわからないんだろうね、誰も仏さんに触ろうとしないから。で、土葬したあとで村の役職さんたちが見回りに行くんだけど、 墓に耳を澄ますと、微かに助けを呼ぶ声や、カリカリと桶を引っ掻くような音が・・」
「うわぁ・・」
「慌てて墓の家のものを呼びに行くんだけど、死人が生き返った家の人ってのは、決まって面倒くさそうな顔して来るんだよ。それで墓の前で村役と、あーだこーだと時間を引き延ばすんだ。 そうやって時間を稼いで、もう一度死んでくれることを待つんだよ。それでほとんどの場合はそのまま、なにしろ生きたまま埋葬したなんてことがバレれば家の名に傷がつくからね。ところが悪いことはできないもので、翌日には村中に広まり、疑惑の家としてネタ話にされちゃうんだよ」
「悪いことはできないなぁ・・」

「そんな噂の中で家がうまく廻っていくわけないだろう?数年するとそんな家は離散状態になるわけ。それを見て世間は、仏さんの呪いだとかまた噂になるの。ああそうそう、一応だけど私の実家では生き返りは一回もなかったからね!」
「いや、そんなこと自慢されても・・というか生き死にの話はもうやめない?」
私はなんだか婆様の死がより近づくような怖さを感じて、強引に話を終わらせた。


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