私は30代主婦で、現地人の夫と結婚して欧州に住んでいます。去年の夏休み、子どもと一緒に近所の公園でずいぶん遊びました。いくつかある公園の中でもお気に入りは、静かな住宅地にあるB公園です。大きな段々畑のようになっていて、うっそうと茂った大きな菩提樹の木陰で砂遊びができるので子どもが気に入っており、ほぼ毎日のように通ったものです。
だいたい午前中か午後の早い時間に行っていたのですが、ある日何となく夕方遅くに行ったことがあります。いつ行ってもそんなに人がいないので、二人だけの貸し切り状態であることが多いのです。その日もやや暮れかかった夏の日差しの下、私たちの他には子犬を散歩させている女性と、おしゃべりに興じる老婦人ふたりがいるだけでした。砂遊びにふけるうち、その犬と女性、老婦人たちもいつの間にかいなくなり、いつしか公園は静まり返っていました。と突然、入口方面から急ににぎやかな声が聞こえ、5・6人の子どもたちと、3人の女性が入ってきたのです。
ぱっと見たところ、その子どもたちはもう小学校くらいの大きな女の子・男の子たちでした。彼らは私の幼い子どもには目もくれずに園内を駆け回って遊び、一緒に来た女性たちは遠くのベンチに陣取っておしゃべりに興じていました。私ははじめ、全く気に留めずに子どもと遊んでいましたが、ふと妙なことに気がつきました。駆け回る子どもたちの、その恰好が少し変なのです。
そろって痩せぎすの体に、ひどく時代遅れの古めかしい衣類、靴を身につけていました。それはよく、TVで50年代・60年代のアーカイブ映像が映し出される時に人々が来ているものとそっくりで、また衣類に限らず女の子の髪の結い方、男の子の刈り上げ方までが古めかしいのです。まさに、古い映画の中から出てきたような…そんな子供たちでした。
お母さんたちの趣味かしら?と思い、女性たちの方を見て驚きました。その女性たちも、そろってひどくノスタルジックな恰好をしているのです。3人とも足首までの長いスカートをはき、腰のところできゅっとブラウスを中に入れています。きっちりと結い上げた髪に、バッグではなくバスケットかご…。ひとりはベビーカーを押していましたが、それも博物館にしかないような型のものでした。
お金がなくて古い服を着ている、という雰囲気ではありませんでした。何かがおかしい、と私の胸はざわめきました。ふと、近くを通り過ぎた女の子が、私たちに笑いかけました。
「面白いかっこうしてるのね、あなたどこの国のひと?」
そういって行ってしまいました。
熱い夏の空気がうねり、風までがのろのろしているような、妙な一時でした。やがて女性たちが立ち上がり、子どもたちに呼びかけて一隊は公園から出て行きました。するとそれまで輝いていた日が曇り、すぐに土砂降りの夕立がやってきて、砂場に子どもたちがつけた足あとはすっかり洗い流されてしまいました。
帰宅後主人にこの話をすると「またか」と言われました。夫側の家族には、このように「過去の人々」と行きあう機会を持った人が何人かいるそうなのです。ここは都会から遠く離れた山地の田舎ですが、いくら田舎でもありえない程の、時代遅れな格好・習慣を持つ人と行きあう経験を時としてするのだとか。たいていは他に目撃者はおらず、夢でも見たのだろうと笑われて終わってしまうのであまり口外することもないのですが、家族のあいだでは話題として共有されていたのです。
私と子どもも、ひょっとしてそのうちに入ってしまったのかな、と思いました。タイムスリップのような感覚で、特に今のところ害は感じないのですが…どこか別の世界へ迷い込んでしまうような気がして、私としては怖くてたまりません。その後も足繁くこのB公園に通いました(少し早い時間に)が、あの不思議な女性と子供たちとは2度と会っていません。