これは、実話です。数年前、私は妹と二人で東京で二人暮らしをしていました。元々は二人別々に部屋を借りていたのですが、二人の家賃を合わせると一軒家が借りられるという事に気付き、都心から多少離れてはいるものの、広くて綺麗な家を借りる事にしたのです。
ある日、妹がお風呂に入り、私が二階でテレビを見ている時です。風呂場から「ギャアアアアア」という物凄い悲鳴が聞こえました。ゴキブリでも出たかと思って一階に下りると、妹は髪をぐっしょりと濡らして裸のままで廊下に立っていました。何があったか知らないが、いくらなんでもその格好はないだろうと呆れながら、「どうしたの?」と聞くと、青ざめた顔で「・・・風呂場、見て来て、お願い」と言います。言われた通り見てきましたが、特に変わった様子はありませんでした。脱衣所までびしょ濡れで、妹が湯船から慌てて飛び出した様子が伺えた以外は。
取り敢えず服を着て、髪を乾かして一息付いてから、妹は事情を話し始めました。いつものようにお風呂に浸かっていると、「ヒュー・・ヒュー・・」という誰かの呼吸する音を聞いたというのです。周りを見わたしたのですが、誰もいません。風の音だと解釈し、妹は深く気にせずに髪を洗い始めました。湯船に浸かりながら上半身だけ風呂釜の外に身を乗り出し、前かがみになって髪を洗います。手のひらでシャンプーを泡立て、地肌に指を滑らせ、髪を揉むようにして洗いました。そのとき、ある事に気付いたのです。髪が、長い。
妹が洗っている髪の毛は、彼女自身の髪よりも数十センチ長かったそうです。そして、もう一つのある事実に気が付いた時、妹は思わず風呂場から飛び出してしまったそうです。後頭部に、誰かの鼻が当たっている事に。
それ以降、妹は極度の怖がりになってしまい、お風呂に入る時は必ずドアの外で私が待機するようになりました。私自身は、今日に至るまで何ら不思議な体験をしてません。しかし、妹は確かにあの時、自分でない誰かの髪を洗ったと言います。