去年の今頃の話だが。その頃俺は、昔のSF小説にはまってた。ノリが良くて勧善懲悪なところが、何かスカッとして面白くて、復刻版の文庫を買ってきては読んでいた。ある晩、本を読みながら眠ってしまった俺は、ふと気配を感じて目を覚ました。部屋の隅に人が居た。30過ぎくらいの女で、夏なのにセーターと長くて分厚いスカート。壁にもたれて座り、本を読んでいる。 ものすごく驚いたが、寝ぼけているせいか不思議と怖くなかった。おばさんだが、よく見ると前に見た『アメリ』って映画の主人公に似ていて結構見られる。
何となくぼーっと見ていると、女がこっちを向いて笑った。
「こういうの好きなら○○に聞いてごらん。まだあるから」
そう言って、持ってた本をこちらに見せた。寝る前に読んでた『スペースオペラ』だった。そこで目が覚めた。朝になってた。
変な夢だなーと思ったが、部屋の隅を見てびっくりした。俺のSF本が数冊重ねて置いてあった。そして、一番上に寝る直前まで読んでた本がきちんと置いてあった。マジかよ、としばらく頭を抱えたが、ふと気になった。女が言っていた○○って誰だ?俺の周りで○○って名前は父親だけだ。他に思い当たる相手もいないし、早速仕事から帰ってきたら聞いてみた。一応夕べの文庫本と、姉から『アメリ』のDVDも借りておいた。
最初父は『お前大丈夫か?』という顔をしていたが、本とDVDを見た途端に態度が変わった。
「姉ちゃんか・・・そういやもうじき盆だったな。よし、今度の休み墓参りに行くぞ。お前も来いよ」
その姉ちゃんは、正確には父の従姉だったそうだ。父より10歳近く年上で、良く面倒を見てもらったらしい。何か変わった人で、本と香水と古い香水ビンが大好きで、35で死ぬまで独身だったそうだ。すごく優しくて、父も周りの人にも好かれていたそう。母とも仲が良かったらしく、そういえば何か話を聞いた覚えもある。母が宝物にして飾ってあるビンのコレクションが、その人の形見だったとか。絶版品で貴重品とか言ってて、昔姉が勝手に触って怒られていた。
「何で俺のとこに出てきたんだろう?」と聞くと父は、「嬉しかったんだろ。姉ちゃんこういう話好きだったからな」それから休みになって父の実家に行くと、父の言葉通りに物置からどっさり本が出てきた。その中に昔のハヤ○ワSF文庫の初版も山ほど混ざってた。俺の読んでた本もそこにあった。時々、この人が生きててくれたら、今頃どんな本を読んでたのかと考える。
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こういう話はしみじみとしていいね