海の近くにある親戚の家に泊まった時の話。夏だったけど、そこの家の子が喘息もちで蚊取り線香の類は使っておらず、代わりに蚊帳を釣ってくれた。夜中寝苦しくて目が覚めた。暑かったので縁側から外に出た。少し無用心かと思ったけれど、網戸とカーテンだけ閉めて海の方へ散歩に出た。昼間歩いたときはすぐだったのに、いつまで歩いても海にたどり着かない。道の両側の家並みが妙に狭苦しくて、おしつけられるような感じで気分が悪かった。
やっと海が見えたので砂浜に下りると、昼間は乾いていた所にまで潮が満ちてきていて、その水が生ぬるく、いつのまにかサンダルも脱げてしまっていて恐くなった。走って家の方へ戻ると、あっという間にたどり着いた。閉めていたはずのカーテンが開いていて、見ると蚊帳の中に寝ている奴がいる。腹が立ったので近づいて見下ろすと自分だった。
そこではっとして目を覚まし、体を起こして蚊帳の外を見ると、カーテンが開いていて、もう外は明るくなりかけている。縁側から蚊帳の裾の畳の上まで、砂まみれの足跡がついていた。布団から足を出してみたが、少しも汚れていなかった。サンダルはなくなっていた。