不可解な事故死をした友人の証言

もう10年くらい前になる。高校を卒業してフリーター1年目。俺は問題を起こしすぎて、同じ市内なのに両親が俺のためにアパートを借り、実家から無理やり追い出されていた。「バカは群れる」の法則で、俺の周りもみんなフリーター。それも、いわゆるDQNだ。髪の色もピンク、金、青とみんなカラフル。まぁ、バンドマンが多かったせいもあるが。

当時18才で免許取りたてだったバカがやる行動なんて限られている。田舎だしね。毎日酒を飲んで車でナンパか、心霊スポット巡り、カラオケ。だけど、俺たちはそんなに悪い感じではなくて、人様に迷惑をかける事や、明らかな犯罪はしなかった。でも、その日は状況が違った・・・。その時、俺は3人の仲間(A、B、俺)でつるんでいたが、3人ともバイト先で女に手を出したり、店長を殴ったり、お客と喧嘩したりと問題を起こして全員無職に。まさにクズの集団。が、俺だけは実家がまあまあ裕福だったから余裕があって、その日も銀行から下ろしたばかりの仕送りの中から千円をAに貸していた。

その日は凄く晴れていて、気持ちのいい8月の夜。山間だから湿気もないし、風も殆どなくて、夜遊び日和だったのは覚えている。3人で心霊スポットで有名な寂れた神社に車で行った。鳥居の前に車を乗り付けて。そこは、毎晩夜中に丑の刻参りが行われているとか、気が狂った女がそこで誰の子か分からない子供を産み落としてその場で殺して食ったとか、昔は処刑場だったとか。色んな噂があり過ぎて全部疑わしかったが、行ってみると謎の染みが付いた鳥居や、何十年も前から使っているであろう賽銭箱、ミイラにしか見えない木造のご神体など・・・。雰囲気がありすぎて、噂は全部本当じゃないかって思えるくらいの場所だった。

そこに男3人、時間は午前3時。虫の声、鳥の声、木々のざわめき、闇、月夜に浮かぶ鳥居・・・。とにかく怖い。怖いが、県内の心霊スポットを行き尽くした俺たちは、5分もすると慣れて調子に乗り始めた。神社内のあちこちを散策していたが、賽銭箱を見ていたAがふと言った。
「これ、鍵壊せね?」
俺とBが賽銭箱の後ろを見てみたら普通の引き出しのようになっていて、安っぽい南京錠が付いていただけだった。100均で買ったような南京錠が数年雨風にさらされた感じ。普段はこういう所に来ても賽銭泥棒なんてしないが、その時は全員無職に貯金無しだから、「やっちまおうか?」という感じで3人で顔を見合わせた。酒の勢いもあって「やろうぜ!」となり、俺とBが賽銭箱の表の淵を掴み、Aは裏の南京錠だけを掴んで、「せーの!」で引っ張り合った。

バキッ!と乾いた音がして、俺とBは吹っ飛んだ。見てみると、鍵ではなくて止め金と賽銭箱の木の部分の繋がってる部分が割れていた。
「いくら入ってるかな~?久しぶりに風俗行きてえなぁ~」なんてバカなことを言いながら3人で引き出しの中を見てみると、クシャクシャの千円札が1枚と小銭が5枚くらい。
A「これしかねぇのかよ」
B「少な!しょぼい神様だな、おい」
俺「逆に千円入ってたのが凄いわ。誰が入れるんだ?こんなボロイところに」
なんて言いながら、みんなで賽銭箱に唾を吐いたりしていた。

するとAが、「まぁ、しょうがねえわ。これで牛丼でも食おうぜ」なんて言って、そのお金を自分の財布に入れた。その時、それまで風一つない夏の終わりの爽やかな雰囲気だったのに、突然「ゴオー」という感じの突風が吹いた。神社の周りの木が「バサバサバサ」と揺れて、カラスが一斉に飛び立った。3人してお互いの顔を見合わせたが、もう目ぼしい物もないし帰ることになった。そこから、おかしいな事が起こり始めた。

まずエンジンがかからない。3分ほどしてやっとかかったが、それまでの間、車内の温度が異常に熱かった。運転席にいるAは、「左の頬が熱い」と言う。助手席のBは、「右の頬が熱い」と言う。助手席の後ろにいた俺は、右の頬と前の座席の肩の部分に乗せている右手の肘から先が熱かった。最初は虫にでも食われたかな?と思っていたが、車で走り出してからその熱さがどんどん酷くなり、しまいには痛くなっていた。俺とBは、「痛い痛い!」、「かゆい!」と叫んでいたが、5分くらい走ったところで熱さが急に消えた。

すると突然Aが、「痛いっ!!」と言い出し、俺とBが「どこが?」と間抜けな声で訊きながらAを見た。そしたら、運転していてこっちをチラっとしか見れないAの左頬に、真っ赤な手形が浮かび上がった。思いっきり何度もビンタした時のような手形の跡が。俺とBはドン引きして、狭い車内でなるべくAから離れる感じで震えていた。Aは運転しながら、「痛いっ!!てかお前ら、俺の顔の左側どうなってる?!」と言いながら、左目を閉じて右目だけで運転していた。

俺もBも何も言えなくてアワアワしていたら、Aの左頬の手形の部分からは血が滲み始めた。それを見た俺とBは錯乱して、「車を止めろ!!」と言うと、減速し始めたと同時にBが飛び降りた。パニックになった俺も、3秒ほどしてから車から飛び降りた。足を挫いたが、舗装されていない道だったからまだ良かった。その後、10メートルくらい走って車は止まった。

ハンドルを握ったままのAが振り向いた。運転席には、Aに絡み付くように肩くらいの髪の女がいた。女は、Aの頬に浮かび上がる手形の上に手を添えていた。女の視線の先は、ずっとAだけだった。Aは泣きそうな表情でこちらを向いたまま、なぜか車を発進させた。そのまま国道に出て、視界から消えた。俺とBはタクシーを拾ってファミレスに行き、何度もAの携帯に電話をかけたが、ずっと通話中で繋がらなかった。

次の日、Aは150km先の隣県の高速道路で中央分離帯にぶつかって死んでいたらしい。俺らは葬式には呼ばれなかった。後で聞いた話だが、Aは死ぬ直前、弟に電話をかけていたらしい。内容は支離滅裂だが、「女がアクセルを踏む」、「撫でられると血が出る」、「最初、女は後部座席の真ん中に座って身を乗り出していた。その後は自分だけが掴まれた」などと言って、一方的に切れたらしい。その後の警察の調査で、Aの財布からは「ピン札の千円札」しか出てこなかった。

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