地図だけを頼りに山へ入り込み、地図上、平らな地形の場所にテントを張る。馬鹿馬鹿しいが、それはそれで面白い遊びだ。それでも、見込み違いはある。ガイドマップではなく、国土地理院発行の五万分の一や二万五千分の一の地図から得られる情報は、やはり少ない。それでも、ガイドマップなんざ使えるかよ、などと息巻いて山をほっつき歩くことを、やめようなどと思ったことはない。
その日、テントを張る場所はついに見つからなかった。寝る場所なら、あった。絵に描いたような廃屋。雨漏りは確実だろうが、屋根付きだ。腐っているとはいえ、床板もある。だがしかし、絶対に入りたくないと五感が告げていた。視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚の全てが、その廃屋を嫌がっていた。だがしかし、嫌がっていたのは、俺だけだ。他の連中は、屋根付きの優良物件に大喜びしていた。
壊れた玄関の引き戸をずらし、中へ踏み込んだ。縁側の雨戸などすでになく、窓もなく、木漏れ日が家の中を照らすでもなく、薄明るくしていた。カビと、何やら酸っぱい臭い。畳が敷かれていたであろう部屋を覗いて、虫酸が走り、鳥肌が立った。床のあちこちに、卒塔婆が転がっているのだ。
散乱しているのではない。きちんと並んでいる。目を凝らし、俺は首をかしげた。埃まみれの床板で足を滑らせると、足はそのまま卒塔婆の上に乗った。卒塔婆は転がっているのではない。床板として、打ちつけられている。卒塔婆は全部で四本ある。俺たち一行は、四人。その偶然に、なぜか足がすくんだ。
卒塔婆のことを告げると、そこで寝たいなどという馬鹿者は、さすがにいなかった。薄暗くなった山道を走るように逃げたが、最後尾を行く俺は、背後の足音をずっと聞き続けていた。