この出来事は30年ぐらい前に、私のおじさんが体験した話です。
おじさん(以後主人)の奥さん(以後妻)が、いよいよ子供を出産する日が近づいて来ていた。初めての出産を一週間後に控えていたのだ。
その日、妻は朝からなんとなく体調が悪かったらしい。体のことを気遣い、その日は早い時間帯に寝た。
その真夜中、午前4時過ぎに家の電話が突然なった。妻の主人が、「誰だこんな時間に・・・非常識な奴だ」と言いつつ電話に出たらしい。
「もしもし」
『・・・』
「もしもし?聞こえてますか?」
『・・・』
無言だ。その電話の奥では、チリーン・・・チリーン・・・という音が聞こえたという。主人はいたずら電話だな?と思い込み、こちらも黙ってみることにした。
主人が無言になってから、1分ぐらいしたころだろうか。相手が何かを言っている。
『・・・さ』
主人は、とうとう痺れを切らしたな、と思い、さらに黙っていることにした。それから30秒後、再び声が聞こえた。
『・・・さ・・・いで』
何をいってるか上手く聞き取りにくいが、今度も声が聞こえた。それから、20秒後また声が聞こえた。
『ぼく・・・さないで』
ふと、主人は気づいた。電話から聞こえている声が、子供の声であるということに。主人は恐怖心に包まれた。
こんな時間に子供が・・・。次の瞬間、声が野太くスローがかかったような声で、
『ぼぉおおお~くぅうううう~をぉおおっぉお~』
その声聞いて、主人は思わず電話をガチャンと切った。ハァハァ・・・ハァハァ・・・主人は息切れしていた。い、いたずらにしては手がこんで・・・と思いながらも、冷静さを取り戻そうと、水を飲みに台所に行こうと後ろを振り向いた瞬間、子供がいた。5~9歳ぐらいに見える、子供の姿だったらしいのだが、髪が顔全体を覆い隠していて見えなかったらしい。
主人は驚いて腰を抜かし、後ろに倒れこんでしまった。声を出そうにも、声が恐怖に包まれて出ない。目には涙が溜まっている。その子供は、だんだん主人に近づいて来る。主人は何とか手で後ろに後ずさるも、その子供はどんどん近づいて来る。
そして、主人の目の前まで来てしまった。子供はぬっと主人の顔の寸前まで来て、自分の顔を近づけて来た。その瞬間、突風が吹いたように、子供の髪が一気に後ろの方に流れた。主人は見てしまった。
その子供の顔が、この世の者とは思えないような顔をしているのを・・・。そして聞いてしまった。
『ぼぉおおおおお~くぅうううう~をぉおおおおお~こぉおおお~ろぉおおお~さぁあああぁ~なぁああああ~~~いぃいいいいいいい~でぇえええええええ』という野太いスローがかかった声を。
主人は悲鳴をあげて、妻を起こした。さっきの場所に連れてくるも、子供の姿はどこにも無かった。警察にも電話をし、来てもらったらしい。それからは何も起こらなかった。
一週間後、妻が出産を迎えた。赤ん坊の出産を終えた妻の元に、主人は付き添いっていた。赤ん坊は未熟児だったので、医師たちが別室に連れていったという。コンコン、部屋のノックがしドアが開いた。
「ご主人、ちょっと良いですか?」
そう言われた主人は、妻の手を撫でながら部屋から出た。そして、医者から赤ん坊について言われた。
「・・・非常に良いにくいのですが・・・あなたのお子さんは未熟児ではありません。奇形児です」
主人はひどくショックを受けた。
「まだ、生きてはいるんですが・・・」
などと色々聞かされた後、「もし、このまま、この赤ちゃんが順調に育ったとしても、世間では・・・」と言われ、主人は已む無く、安楽死を承諾した。
「その前に、一目でも我が子を見せてもらえないでしょうか?」
「う~ん・・・」
と、医者は難しい顔をしていたが、あまりの主人の頼みに医者は承諾した。
主人は別室に案内された。我が子が入っている、ケースらしき物があった。そして、ケースの中を見た瞬間、背筋に恐怖が過ぎった。顔全体に黒い毛がびっしりと生えていたのだ。まるで、一週間前に見た子供と同じように・・・。あの時、見た子供はもしかして・・・。そう思いながら部屋を出ようとした瞬間、あの声が聞こえたという。
「ぼぉおおお~くぅううう~をぉおおお~・・・」
私のおじさんが実際に体験した話です。当時は医療技術がまだ未発達だったので、出産まで奇形児かどうかは分からなかったみたいです。
最後に部屋を出るときに、子供の声が聞こえたらしいのですが、おじさんだけにしか聞こえなかったらしいです。それから2年後、再び子供を授かりました。それからは、何事もなく平穏無事に過ごしています。唯一体験した、怖い出来事だったらしいです。